テレワーク推進フォーラム会長 大西隆氏 |
テレワーク推進フォーラム主催のセミナーが3月19日に開催された。
同フォーラムは、テレワークに関係する、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省の4省の呼びかけにより民間の企業なども参加して、2005年11月に設立された団体。テレワークの円滑な導入のための調査研究や普及活動を実施している。
今回開かれたセミナーでは、各部会や省庁からの活動報告を中心に、2007年度のフォーラムの締めくくりが行われたかたちだ。開会にあたって登壇したテレワーク推進フォーラム会長の大西隆氏は「テレワークは、実態としてはそこそこの普及してきたと言える。ただ、その中身というのが我々が理想とする"ワークライフバランス"の改善にテレワークが必ずしも貢献しているというわけではない。これからは質的な向上が必要である」と述べ、テレワークの開花に向けた機器の開発や制度などの社会インフラの整備が重要だと主張した。
経済産業省大臣官房審議官(IT戦略担当) 吉崎正弘氏 |
また、同じく挨拶した経済産業省大臣官房審議官(IT戦略担当)の吉崎正弘氏は、同日朝に開かれたIT戦略会議において、電子政府、電子教育と並び、テレワークが政府の重点政策として掲げられたことを明かし、「テレワークを使って業務を大きく改善しようという経営者の意識が遅れている。これは行政が口を突っ込めるものではない。"やってみよう"という気運作りや世論形成をしていくことが重要だ」とこれからの課題を語った。また、「日本は世界的にもブロードバンド大国でセキュリティ環境も整っている。それなのに日本でテレワークが本物になりきれないのは、日本はアウトプットよりもプロセスを重視する風土があり、一所に集まって一緒に仕事をしなければならないというな価値観がいまだに根付いているのが要因だ。これを変えていかなければ、日本の産業は国際競争力に勝てない」と警鐘を鳴らし、政府の役割として、企業にとってのテレワークの効果を可視化する測定法を提示することや、SaaSを活用するなど使いやすい共通基盤の構築、テレワークを前提に作られていない現在の労働法制を改めていくことが挙げられた。
今回のセミナーには、衆議院議員の高市早苗氏も駆けつけ、「これからの日本とテレワーク」と題した基調講演が行われた。高市氏は安部前内閣で内閣府特命担当大臣として、イノベーション担当や少子化・男女共同参画担当、科学技術政策担当などを兼任。高市氏は、昨年、シンガポールに出張した際に現地の企業を訪問し、1年の在宅勤務を行っている社員に面会したことを明かし、面会者に成功のカギを訊ねたところ、「成功へのカギは上司の能力。適切に社員に支援をし、クオリティを正当に評価できること」と語ったことを紹介した。
高市氏がテレワークにもっとも期待するのは、少子高齢化に伴う労働者確保の救済だ。テレワークの普及は特に女性や高齢者、障害者の雇用拡大につながるとして期待が寄せられている。同氏は「これからはひとりでも多くの人が国力となり広く薄く栄えていくこととが必要」と述べ、高市氏の地元である奈良の例を挙げ、「奈良のニュータウンも高齢化が進んでいる。ニュータウンには関西の財界人も大勢住んでいるが、テレワークが進めば、そこで新たなビジネス起業の流れにもなるのではないか?」と独自の理論を展開した。
前内閣府特命担当大臣の高市早苗衆議院議員 |
また、テレワーク普及の妨げになっている一因として、現在の労働法の問題点を指摘。「現在の労働法ではみなし労働時間制が定められているが、育児休業はその対象になっていない。育児中は、飛び飛びで働いたり、ふつうに働く人とは時間がずれていることもあるのではないか。それを個人の裁量でできるようになれば、もっと多くの人が働けるようになるはず」と語った。さらに、育児休暇中の給付金の認定基準にも触れ、「現在、育児休暇中の給付金は就業時の50%が支給される。しかし、給付基準は1カ月の就労が10日以下と定められており、仮にテレワークで1日に1時間でも働いた場合、その基準を満たすのは難しくなってしまい、それがテレワーク推進の妨げになってしまっているのではないか。育児休暇中でもテレワークで働くことを前提にすると、この基準は現実的ではない」とし、育児給付金の給付基準を日数単位ではなく、トータルの時間総数で計算するよう見直すべきだと提言した。そのほかにも、テレワーク勤務中の事故やケガ、労災の適用基準を明確化や、メンタル面でのケアをどのように行うかを検討する必要性を説き、テレワーク労働を反映した、法制度や体制の見直しを今後の課題として強調した。
そのほか、フォーラムの調査研究部会からはて、テレワークの効果測定方法の提案を徹底して行っていくことや、普及部会からは企業、女性、障害者それぞれの立場に訴求して、2008年度も利用者の裾野拡大と実態調査などを行っていく意向が発表された。