日本オラクルは、SOA (Service Oriented Architecture: サービス指向アーキテクチャ)をいっそう普及/拡大することを図り、SOAシステム構築のためのフレームワーク「ファウンデーション・パック」の提供を開始する。「ファウンデーション・パック」は、SOAシステム構築に必要な要素を事前に定義した部品群で、オラクル製品以外のアプリケーションベンダ製品や独自開発システムなどにも対応できる。また、同社は、SOA実現を支援する組織「SOA Architect」を新設、企業がSOAをより導入しやすくすることを狙う。
日本オラクル 製品戦略統括本部 Fusion Middlewareビジネス推進本部 シニアマネジャー 吉田光伸氏 |
「ファウンデーション・パック」は基本的に、アプリケーションを開発する場合に必要とされる汎用的な設計モデルで、開発の基盤となるもの。要素技術を組み合わせるための枠組みとして提示され、アプリケーション固有のメッセージと共通メッセージモデルの変換機能、共通サービスインタフェース、共通データモデルなどが部品として提供される。このようなフレームワークを利用すれば、アプリケーションを開発する際、独自に必要とされる部分だけを作り込めば済むため、「開発工数が削減されるとともに、本質が均一化されるなど、効率性が向上する」(同社 製品戦略統括本部 Fusion Middlewareビジネス推進本部 シニアマネジャー 吉田光伸氏)という。
「ファウンデーション・パック」を構成するのは、エンタープライズ・ビジネス・オブジェクト(共通データモデル定義: EBO)、エンタープライズ・ビジネス・サービス(共通ビジネスサービス: EBS)、ビジネス・サービス・レポジトリ(BSR)、コンポジット・アプリケーション検証システム(CAVS)、ドキュメントなどだ。
EBOはアプリケーションの機能をオブジェクト化したデータモデルで、ERP、CRMなど、複数のアプリケーションを連携させる場合、業界標準に準拠した共通オブジェクトを介在させることで、アプリケーション間の相互依存度が低減された連携が実現する。共通データを定義することにより、アプリケーションの数が増加しても、共通オブジェクトへのデータ関連付けだけで、データ連携が可能になる。共通データモデルがないと、アプリケーション数が増えるたびに、連携のためのプログラムや、アプリケーション間でのデータ関連付けが必要になり、連携への負荷が高くなってしまう。EBOは、複数のアプリケーションの共通言語として用いることができるため、いわゆるレガシー製品までを含めた異なるアプリケーションにも対応が可能だ。
EBSとは、事前定義済みのWebサービスで、WSDL(Web Services Description Language)で定義された汎用的な業務機能を担っており、EBOをやり取りする環境となる。作成、検索、更新、削除、同期など、EBOへの操作は、サービス統合の基盤である「Oracle Enterprise Service Bus」が規定している。
EBOやEBSの定義は膨大な数になるが、これらを管理するのがBSRで、ここにサービスの定義が保存され、オブジェクトの関係、依存性情報、実行時の配置情報などを統合的に扱うため、オブジェクトの再利用性が高くなる。CAVSは、検証のためのテストツールで、統合で実際に使用されるサービスの起動シミュレーションや、アプリケーションのない状態での統合化のテストなどができる。
日本オラクル 常務執行役員 製品戦略統括本部長 三澤智光氏 |
今回、新たな部門として設置される「SOA Architect」は、当初10人の要員をそろえ、企業のSOA導入を支援、業務・情報システムの構造改革、SOA実現までのシナリオ、ロ-ドマップの提言などのコンサルティングを担当する。「経験豊富なプロフェッショナル」(同社 常務執行役員 製品戦略統括本部長 三澤智光氏)が集められ、今後さらに人数を増やす予定だ。また、情報提供の場としてセミナー「SOA Boot Camp」をすでに3月11日から開催している。
同社は、SOAを強化/促進するため、システム、アプリケーションをつなぐフレームワークとして「Oracle Application Integration Architecture(AIA)」を整備している。「ファウンデーション・パック」は、AIAの構成要素のひとつとして位置づけられている。いわば、設計図にあたるのが「業務別参照モデル」で、アプリケーションには依存しないかたちで、業務を文書化している。2007年7月に投入された「プロセス統合パック: Process Integration Packs(PIP)」は、「オラクルが提供する事前定義済みSOA」とされており、「Oracle Applications」のアプリケーション製品群を統合し、これら相互間を連携させるための基盤となる。
SOAは、企業の事業活動を司るさまざまな機能の壁を超え、ビジネスプロセスを柔軟にして、ITを真にビジネスの現場で効果的に活用できる手段として、その重要性が認識されてきている。IDCの調査によれば、2011年にはSOA関連市場は4,000億円になるとの見通しで、今後、導入を検討している企業は57%に上るという。しかし、いまの段階でSOAを適用しているのは全体の8.4%だ。三澤氏は「アプリケーションをどう構築したらよいのか。SOA環境を構築したとして、全体の管理はどうすればよいか、など、SOAはむずかしい、というのが一般的なイメージになっている」と指摘、今回の施策は「SOAをシンプルにしようとする」(三澤氏)ことを目指す。PIPは、AIAの発想を具現化するものとして投入されたが、統合できるのは基本的に「Oracle Applications」だった。しかし、「ファウンデーション・パック」は、オラクル以外の製品にまで、守備範囲を広げることになり、同社のSOA推進戦略はいっそう強化される。