3月17日に開かれた内閣府主催のシンポジウム「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて」において、昨年(2007年)12月に発表された内閣府による「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」の策定に携わった関係者によるパネルディスカッションが行われた。

「憲章・指針の実践に向けて」と題して行われたパネルディスカッションには、政府、労使、学術関係者からパネリストとして4名が出席。獨協大学准教授の阿部正浩氏をコーディネーターに、厚生労働大臣大臣官房審議官(雇用均等・児童家庭担当)の村木厚子氏、日本労働組合総連合会事務局長の古賀伸明氏、日本経済団体連合会参与の高橋秀夫氏、慶応義塾大学商学部教授の樋口美雄氏が参加し、各界からの報告が行われた。

まずはじめに樋口氏が憲章と行動指針の策定に至った経緯を説明。「日本の人口問題は単に少子高齢化ではなく、人口構成が大きく変化するという点にもある。これまで、児童手当ての支給や保育支援などで政府は少子化対策を行ってきたが、これだけでは成果が上がらないということで、働き方の見直しに目が向けられた。しかし、ワーク・ライフ・バランスは人によって捉え方が異なり、政府の男女共同参画会議や経済財政諮問会議、子供と家族を応援する日本重点戦略会議の3つの検討会からも憲章で明確にすべきだと求められた。政労使の三者が合意した憲章は今回が初めてで、労働力確保という深刻な問題への危機感が今回、三者の調印に至らせたのだろう」と語った。

政府側の代表として出席した村木氏は「従来、働き方の見直しは個々の企業の取り組みに依存しており、社会的広がりが欠如していた。しかし今回は、経済界、労働界、地方のトップで協議し合意に至ったことで、視野の広いものになった。具体的に目標数値を定めたこともポイント。社会全体を動かす大きな契機にしていきたい」と憲章と行動指針の策定に至った意義を強調した。さらに政府の役割について「企業や労働者、国民の取り組みの支援・促進」と「子育て支援等の社会的基盤づくり」を掲げ、すでに3月4日に「次世代育成支援対策推進法」の改正案を国会に提出し、これまでは従業員規模301人以上の企業の事業主に義務づけていた「一般事業主行動計画の策定・届出義務」を101人以上に改定する計画や、「仕事と生活の調査推進事業」として2008年度の計画や政府予算を紹介した。

経済界の代表として参加した高橋氏は「憲章と行動指針の作成を評価する」としながらも、「労使が協力して、各社の実情に合った効果的な取り組みを展開していくことが基本。業界や企業の規模で状況は異なるので、行動指針にある数値目標が規則化されることは避けるべき。むしろ、効果的な取り組みが社会全体で共有され、特に中小企業に対して政策的に支援されることが必要。日本経団連では情報発信やネットワークづくりを支援していくので、政府にはグリーン調達におけるグリーン税制のような制度や補助金といった政策的な支援をお願いしたい」提言と要望を語り、「労使の側は一人ひとりの意識改革が重要になる。特に経営トップは範を示すことが必要だ」と役割を示した。

労働者を代表して参加した古賀氏は、労働者のワーク・ライフ・バランスの現状について「正社員が減少する一方、パートや派遣社員等の非正規雇用が一貫して増加する傾向にあり、働き方が二極化しているのが現状。これに付随して、所得の格差や社会保障の差が拡大している。また、長時間労働が常態化し、メンタルヘルス不調者や過労による健康障害、さらには過労死、過労自殺の増加という深刻な事態を招いている」と語った。こうした事態に対して、日本労働組合総連合会では、ワーク・ライフ・バランスの基本的な考え方として、

  1. 「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事」が保障されること
  2. すべての男女労働者に等しく保障されるものであること
  3. 働く側にとって選択可能な働き方であること
  4. 子育て・介護等を支える社会基盤が確立されていること
  5. 個人生活を尊重し、質の高い働き方を求める企業文化、社会システムに転換する
  6. 企業の社会的責任の観点からも積極的に推進すること

以上の6つの要件を掲げていることを紹介した。さらに、「ワーク・ライフ・バランス社会とは、すべての働く人々がやりがいのある仕事と充実した生活との両立について、自分の意志で多様な選択が可能となる社会、それを支える政策やシステム、慣行が構築されている社会のことである」と、同団体が目指すワーク・ライフ・バランスの方向性と、「問題はどう実践していくかだ」と今後の課題を語った。