17日、内閣府主催のシンポジウム「ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて」が開催された。昨年(2007年)12月に内閣府が策定した「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和推進のための行動指針」に基づき、政府、労使が果たすべき役割や、ワーク・ライフ・バランスの推進に向けた国民の理解と協力を向上することを目的に、関係者からの報告や講演が行われた。

まず最初にシンポジウムの冒頭で内閣府経済社会総合研究所 所長の黒田雅裕氏が登壇。黒田氏は「今回、『仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章』と『仕事と生活の調和推進のための行動指針』が政労使の三者の間で調印されたのは、極めて意義の大きいこと。今後は、労使双方が具体的にどういう仕組みを作っていくかにかかってくる。日本はこの四半世紀"失われた時代"を過ごし、ますます難しい経済状態になってきた。さらに少子高齢化問題も絡み、今後社会がどうなっていくかはまったく未知の領域になる。ワーク・ライフ・バランスは、日本が抱える社会問題を解消するキーワードに据え、政策的にそれを実現するにはどういうことをサポートすべきかが課題だ。それを考えるに実り多いシンポジウムにしたい」と述べた。

内閣府経済社会総合研究所 所長の黒田雅裕氏

続いて、資生堂名誉会長の福原義春氏が「複線的人生で得たもの」と題して講演を行った。福原氏は1987年に資生堂の社長に就任し、1997年には会長となった。さらに2001年から現職の名誉会長を務めている。また、そのほかにも東京都写真美術館館長、企業メセナ協議会会長兼理事長、日本広告主協会会長など、多数の公職を兼務。ワーク・ライフ・バランスに関しては、会長を務める東京都男女平等参画審議会が2008年2月にまとめた報告書「企業の実態に即したワーク・ライフ・バランスの推進について」において、調査・審議に関わったひとりだ。

福原氏は「昨今、ワーク・ライフ・バランスが叫ばれ、いろいろな場所で議論されることが多くなったものの、解釈が浅いまま、流行語のようになってしまっている感がある」と指摘。『ワーク・ライフ・バランスとは、老若男女誰もが仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、さまざまな活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態である。このことは、"仕事の充実"と"仕事以外の生活の充実"の好循環をもたらし、多様性に富んだ活力ある社会を創出する基盤として極めて重要である』とする東京都男女平等参画審議会によるワーク・ライフ・バランスの定義を紹介した。

また、企業の間で従業員の働き方の見直しが進まない点について「従業員を仕事にだけ拘束することは、生活者の感覚を喪失させ、労働力の低下にもつながるおそれがある。これは雇用・採用の危機につながり、企業にとっての損失だ。ワーク・ライフ・バランスの効果は、結果が現れて初めて企業はその価値を認識するだろう」と分析した。

2007年3月に著書『ぼくの複線人生』(岩波書店)を出版している福原氏。前述のとおり、会社経営者としてだけでなく、さまざまな団体で多彩な活動している根っからの趣味人でもある福原氏は「人にはA面とB面がある。労働と自分のための生活をうまくバランスさせることが21世紀型の働き方だ」とし、自ら"複線人生"と呼ぶ自身の人生を振り返りながらワーク・ライフ・バランスの重要性を説いた。

「私自身はこれまで仕事と日常を切り分けずに生きてきた。仕事と遊びを多元的にこなしてきた感じだ。仕事以外の趣味というのは、仕事へのクリエイティビリティにも結び付くし、時間の切り替えができる。違った領域での活動は、相互に補完して成果をもたらすもの。周りが見えなくなるようなプロフェッショナリズムはよくない」と、仕事だけに没頭する"仕事型人間"を警告した。また『複線人生はリリース効果がある。片方が片方のストレスを開放する』と語った経済学者の竹中平蔵氏(小泉政権では内閣府特命担当大臣や総務大臣などを歴任)の発言を紹介した。

そして最後に「私が複線人生から得たものは、"切り替える"能力と集中力。決してオンとオフの"切り分け"ではなく、あくまで同時進行。仕事とそれぞれの趣味が並行して線路のように走っているイメージなので、"複線人生"と呼んでいる。私が考えるワーク・ライフ・バランスとは、よりよい"ライフ"のための充実した"ワーク"、前向きな"ワーク"の結果の豊かな"ライフ"」とまとめ、自ら実践して体得したワーク・ライフ・バランス論を語った。