アイ・ディ・ジー・ジャパンは2月29日、東京都内において「Green IT Conference & Demo 2008」を開催した。午前10時40分から開始された2つ目の基調講演では、「『グリーンIT』の推進」と題して経済産業省の星野岳穂氏が日本の取り組みなどについて語った。

基調講演を行う経済産業省 商務情報政策局 参事官の星野岳穂氏

「グリーンIT」(Green IT)とは、一昨年(2006年)ごろから米国を中心にさかんに使われ出した言葉である。IT技術の利用は爆発的に増加しており、それに伴う消費電力量の拡大が地球環境保護の面から問題になっている。そこで地球環境保護の面からITを見直そうという取り組みが「グリーンIT」である。昨年10月に米国の調査会社Gartnerが発表した「The Top 10 Strategic Technologies for 2008」(今後3年間でビジネスに大きな影響を与える技術のトップ10)の第1位にランクインするなど、その注目度は高い。

ITの消費電力量の増加が深刻な問題に

星野氏によると、「IT機器間でやり取りされる情報量は日本だけでも年率40%増」と猛烈な勢いで増えているという。そして「2015年には情報量は今の200倍になる予測がある。省電力技術があるので、電力量も200倍にとはならないが、5倍くらいにはなると見込んでいる。"CO2を削減せよ"と言われているなかで、これは大変なこと」とIT機器の消費電力の急増という問題がいかに大きいかを訴えた。なお、星野氏が示したデータによると、日本におけるIT機器のCO2排出量の予測値は、2006年が0.26億トン。これが2025年には1.34億トンにまで達すると見込まれている。

さらに星野氏は、データセンタの電力消費量が深刻な問題となっている米国の状況を説明した。例えば米Googleの場合、「約45万台のサーバを保有しているといわれているGoogleは、データセンタの消費電力だけで年間10億kWh。たった1社だけなのに、日本の年間発電量の約1.000分の1にもなる。新しいデータセンタは、送電時の電力のロスを少なくするため、発電所の近くに建設している」という。米国にはIBMなどさらに巨大なデータセンタを抱える企業もあり、その深刻さが伺える。

ITによる省電力効果も

大量の電力を消費するIT機器だが、「ITは"いつの間にか電力を使う悪者"ではない」と星野氏は言う。「工場などではITによって電力管理を行い、工場全体の電力を削減している」「インターネット会議などを実現することにより、ITは社会全体の電力削減に貢献している」と逆に消費電力量を削減した事例を紹介した。

「ただ単に『ITを使わないようにしましょう』と言うのではなく、ITによって社会全体の電力を削減していく――これが日本のグリーンIT。"持続可能なIT社会を実現する"ということが重要」と強調した。そのためには「ITによる省電力化の効果を試算し、推進していくことが重要」という。さらに「環境問題というと、産業が衰退するというイメージがあるが、グリーンITについては、いろいろなアイディアが出てきている。"環境"という新しい価値観を持つビジネスも登場している」と付け加えた。

日本の「グリーンIT」の取り組み

こうしたことを受け、経済産業省では「IT機器・システムの省エネ」と「ITを活用した社会の省エネ」の2本柱を軸にグリーンITを推進していくという。

具体例として星野氏は、新しい半導体技術やサーバの水冷システム、電力の少ない有機ELディスプレイなどの開発(IT機器・システムの省エネ)と、センサ技術や計測技術を使った電力管理(ITを活用した社会の省エネ)などを挙げた。例えば「マルチコア技術を利用して熱をほとんど出さない半導体を開発したい」「(ZigBeeなど)無線通信を行うセンサをシステムやビル、街などにばらまき、局所的な情報を得て、きめ細かい電力管理を行うといったことをやりたい」と星野氏は語る。

これらを推進するために、今年2月には企業や業界団体も交えた「グリーンIT推進協議会」が発足。「グリーンITはグローバルな取り組み。日本がイニシアチブを取って、世界中に発信していかなければならない」と星野氏は強い意気込みをみせる。「日本は省エネ大国。日本は石油ショックをきっかけに、エネルギを削減しながらも技術を進歩させてきたという歴史がある。グリーンITでは、日本が久しぶりにITで世界のリーダになれるのではと思っている」と述べた。

さらに、"環境"という新しい価値観を広めて、IT分野における日本の競争力を高めていく。星野氏は「"グリーンIT"や"環境"という切り口にしたときに、技術のロードマップはどう変わるか。同じ電力でどれだけの性能が出るか――そういう価値観を広げていきたい」とした。さらに「日本のグリーンITの3本目の柱として、企業としての取り組みを指標化するといったことも考えている。エネルギを使わないで作ったり、エネルギが少なくて済む環境に優しい製品をいっぱいつくる企業は"良い企業"として評価されるべき」と語った。

星野氏は基調講演の終わりの言葉として「ITはすごい成長率。それに合わせて、すごい取り組みを行っていかなければならない」と、グリーンITの重要性をあらためて強調した。