SAPジャパンと日本ビジネスオブジェクツ(BO)が共同会見を開催、独SAPによるBusiness Objectsの買収後、双方の日本法人である両社が今後、どのように協業していくかについての基本姿勢を示した。SAPジャパンの八釼洋一郎社長兼CEOは、同社の新たなビジネスソリューション領域を拡大させていくためには、いわゆるorganic growth(有機的成長:M&Aに依存せず、自力だけで成長を図る)だけでは十分ではなく、ビジネスオブジェクツの持つ要素を加えることで、新しい分野での成長を図っていく考えを示した。
SAPジャパンの八剱洋一郎社長兼CEO(左)と日本ビジネスオブジェクツの印藤公洋社長(右) |
SAPジャパンでは、2010年にはビジネス領域の売り上げを、2005年比で2倍に拡大させ、その領域の売り上げが、既存のERP、CRMなどのビジネスアプリケーションや業種別ソリューションを追い抜き、全体の50%以上を占めるようにすることを目指している。得意のERPは中堅・中小企業にまで裾野を広げるとともに、同社のエンタープライズSOAを具現化する手段である「BPP(Business Process Platform)も成長エンジンの一つ」(八釼社長)だが、ここに、BI(Business Intelligence)など、BOが突出した強みをもった技術、蓄積を付加する。
SAPのまさに旗艦であり続けるERPは「ヒト、モノ、カネの流れを正しく分析、レポートしてきた」(同)。八釼社長は「大所高所からみると、ERPは企業の過去の実績を正確に捉え、データとして提供してきた。それは自動車で例えると、鮮明なバックミラーがついているようなもの」と話す。しかし「これまでのSAPの弱点は、過去の数値を分析し、次の戦略を策定するとの部分だったかもしれない」(同)と指摘、BOのBIが加わったことで「(先を見渡せる)視界の良いフロントガラスにより、過去の数値をみて、Plan、Do、Check、Actionの流れが確実になる」(同)としている。
一方、日本BOには、BIの厚い基盤がある。分析、レポート、検索にはじまり、企業内の情報をあらゆる角度から統合、分析、管理する「Enterprise Information Management」と呼ばれる発想で、製品、ソリューションが整備されている。同社の印藤公洋社長は「下位の業務システムからデータを取り出し、データウェアハウスを構築することが、BIでは重要になる。エンドユーザー層は経営者から、管理職、一般のホワイトカラーまで、さらに、企業内だけでなく、パートナーなどにもバリューチェーンを広げる。また、文書などの非構造化データもBIで取り入れ、ビジネスネットワークを越えて最適化に貢献する」と語る。
ここで重要になるのは「データウェアハウス、データストアもさまざまな製品、サービスが出てきており、ただ1社だけの体系では賄いきれなくなってきた。手作りのシステムも含め、すべてのビジネスアプリケーションを同様にサポートする」(印藤社長)ことだ。どのようなデータも扱えることが同社のBIの強みだからだ。八釼社長も「BOをSAPに統合するのではなく、(同社は)独立した事業体として業務を展開していく。BOソリューションはSAPと相性が良いだけではなく、他のシステムとも相性が良い。この長所をなくそうとは思わない」と強調した。BOをSAP色に染め上げるのではなく、その独自性を十分維持していくことが両社「同盟」の根底にある。印藤社長は「世界的にみて、当社の顧客の40%はSAPのユーザーだが、60%はそうではない。Oracleとの関係は大変良好であり、これは100%維持していきたい」と語る。
では、協業、相乗効果をあげるためには、どのような手を打っていくのか。製品開発などの点では「両者は相互補完的な関係にある」(八釼社長)ことを生かし「互いの製品の良いとこ取りで整備していく」考えだが、製品の統廃合、BI領域は完全に開発をBOに委ねるのかなどといったあたりは、未だ明確に決定してはいないようだ。
米Oracle、米Microsoftといった有力IT企業は、M&Aに積極的だ。これらの流れに対し、SAPのorganic growth戦略は、好対照をなしている。BOを買収したことについて八釼社長は「従来のorganic growthの否定ではなく、例外的な決定だ」と力説する。自社に不足していた構成要素を、1から作り上げるのではなく、買収により獲得することで「organicよりは時間を稼げた」(八釼社長)ことが背景にある。一昔前までは、ソフト市場をかなり雑駁に概観すると、MicrosoftはWindowsとOffice、Oracleはデータベース、SAPはERP、という構図になったが、Microsoftのビジネスアプリケーション整備、Oracleの買収による成長戦略がもたらした地殻変動により、かつての業界地図はもはやない。「例外的選択」はSAPにとって不可避だったのだろう。