買収は企業の常套手段

企業買収という方法で自社の技術力アップ、ひいては事業基盤の強化を図ることはIT系企業の常套手段。Microsoftから買収提案を受けた米Yahoo!も例外ではなく、2002年には検索技術開発のInktomiを、2003年には広告型検索エンジン開発のOvertureを、昨年にはWebコラボレーションツール開発のZimbraを買収している。筆者が即座に思い出せた事例は3件だが、調べればまだまだあるはずだ。

今回Yahoo!が買収される側に回った理由もかんたんなことで、"算盤に合う"と踏んだ企業が出現したから。買収する側は言わずと知れたMicrosoft、潤沢なキャッシュローを持つIT業界の巨人だ。買収交渉の舞台裏は現在のところ推測するしかないが、1日に実施された電話によるプレス向けインタビューでは、1年半前からYahoo!側と接触していたことを明らかにしている。その間には緻密なシミュレーションが繰り返されていたはずで、買収の額も額なだけに、明確な意図が存在するに違いない。

MSの真の目的は……

Microsoftには、1つの行動パターンを確認できる。ある企業を仮想敵と見なすと、徹底的に追い落とそうとすることだ。かつてNetscapeとの間に勃発したブラウザ戦争は、その典型例だろう。ブラウザが重要なインフラに成長すると判断するや否や、SpyglassからMosaicのライセンスを取得してInternet Explorer 1.0をリリース、その開発に膨大な資金と人員を注ぎ……数年後、IEが圧倒的シェアを確保したことは言うまでもない。

現在、Microsoftが注力しているのはオンライン広告に違いない。2007年5月にはオンライン広告のaQuantiveを60億ドル以上で買収、2カ月後には広告関連サービスのAdECNを買収している。今年1月には、ノルウェーのエンタープライズ検索企業Fast Search & Transferも傘下に収めた。

そしてオンライン広告の分野における仮想敵は、間違いなくGoogleだ。2007年4月、両社はオンライン広告の老舗企業DoubleClickの買収で競り合ったが、そのときMicrosoftはGoogleの動きを"独占禁止法に抵触する恐れがある"として非難。今回のYahoo!買収劇では、反対にGoogleが「インターネットの分野においても不適切かつ違法な影響力を行使しようと試みている」としてMicrosoftを非難している。両社の動きを喩えるならば、なりふり構わず武器を買い漁っている真っ最中というところだろうか。

"万一"後もサービス内容に変化なし?

企業買収そのものは、我々消費者の利益/不利益に直結するとはかぎらない。サービスAを提供するB社が、C社に買われようがD社と対等合併しようが関係なし、Aというサービスが存続するかぎり影響はないはず。もしMicrosoftによるYahoo!買収が成功しても、同じことが言える。

だが思わず身構えてしまうのは、そのAがいずれ消失/変質してしまうのではないか、という漠然とした不安からだろう。具体的には、万一MicrosoftがYahoo!の買収に成功したとして、Yahoo!が提供していたWindowsでもMacでも使えるサービスがMicrosoft製品専用になるのではないか、という"MS推奨技術以外切り捨て"の仮説だ。しかしこれは、かつてのMicrosoftならばともかく、現在の姿からは考えにくい。

その根拠の1つが、Microsoftが打ち出したオープン戦略。これまで頑なに守っていた製品の詳細な仕様を公開したことは、MS路線の転換点であり、買収を成功させたい意図のアドバルーンというよりは、約9年の長きにおよぶ裁判の結果を重く見た結果と解釈すべきだろう。

市場の寡占化は憂慮すべき事態だが、もはや時代は技術/仕様の囲い込みを許さない。買収の決着がつくまでは、生臭い話も聞こえてくるだろうが、そのあとは意外なほどオープンな世界が待っているのではなかろうか……少し楽観的すぎるかもしれないが。