日本IBMは26日、IBMビジネスパートナーを対象としたイベント「IBM IT VISION 2008」を開催した。イベントの開催にあたって挨拶に立った同社代表取締役社長執行役員の大歳卓麻氏は、現在世界のIT市場はデータセンターに関する大きな問題を抱えていると指摘し、同イベントではIBMによる将来のデータセンターのビジョンを見せると宣言した。

日本IBM 代表取締役社長執行役員 大歳卓麻氏

データセンター問題とは、急激に増加し続けるインターネット上のサーバの稼働率の低さ、スペースや消費エネルギーの増加、管理コストの増加などである。これらの問題に対する解決策としてIBMが新たに提唱するのが「次世代エンタープライズ・データセンター (New Enterprise Data Center)」である。その詳細は、基調講演に登壇したIBMコーポレーション IBMシステムズ&テクノロジー・グループ担当 シニアバイスプレジデント兼グループ・エグゼクティブ ビル・ザイトラー (Bill Zeitler) 氏が説明している。

IBMコーポレーション IBMシステムズ&テクノロジー・グループ担当 シニアバイスプレジデント兼グループ・エグゼクティブ ビル・ザイトラー氏

ザイトラー氏はまず、業界における大きなイノベーションの例として医学画像の容量の増加や金融サービスにおける市場メッセージの増加、携帯電話加入者数の急激な増加などを挙げ、それに伴うITインフラの成長によってサーバの導入台数や維持管理コストが増大する指摘した。特に顕著なのがエネルギーの問題で、ガートナーによる分析を引用して「今後5年の間に、ほとんどのデータセンターはハードウェアと同じだけの金額をエネルギーに費やすようになる。熱の除去に必要なエネルギーも考慮すると、全電力容量がさらに80〜120%増加する」と語っている。

IDCの調査による、ITインフラの成長を示すグラフ

エネルギー問題に対するIBMの回答は、昨年発表された「プロジェクト・ビッグ・グリーン」である。これはIBMが1年間に10億ドルを再配分し、グリーン関連のテクノロジーおよびサービスに投資するというもの。さらに、電力消費やCO2の排出、設置スペースを増やさないまま、2010年までにIBM自身の処理能力を倍増させるとも宣言している。そのためのグリーン・ビルディングの建設も計画されているという。

ザイトラー氏は再びガートナーの分析を引用して次のように語る。「世界のデータセンターの50%はすでに陳腐化している。今後5年間で70%以上が大きな変化を迫られるだろう。そしてそのための変化には、ハードウェアの物理的な話題よりも、むしろアルゴリズムやコンセプトといったソフト面の抜本的な改革がより重要となる」。そしてその改革のためにIBMが提唱するITサービス利用の新しいモデルが「次世代エンタープライズ・データセンター」なのだという。同モデルを採用することで、主に次のような成果を達成できるという。

  • 仮想化によってIT利用者とIT資源とのしがらみを解消した、新しい経済モデル
  • 可視化、管理、自動化などによって実現する、あらゆるスケールにおける迅速で高品質なサービス・デリバリー
  • トランザクションと情報、分析のリアルタイムな統合による、経営目標との一致

ザイトラー氏は、同モデルを採用するにあたっては「簡素化 (Simplified)」「共有化 (Shared)」「ダイナミック (Dynamic)」の3つの段階があると紹介している。

まず簡素化の段階では、個々のシステムの仮想化や物理的な統合と最適化によって、複雑さやエネルギー消費、人件費の削減を実現する。これについてはすでに多くの企業が実施しており、成功例が多数あると同氏は指摘している。

続く共有化の段階では、全体の最適化やグリッドによって高度に仮想化されたインフラを構築する。また、ITサービス管理の統合や計画的なグリーン化によって、新規インフラサービスの迅速な展開が実現できるようになるという。

最後のダイナミックは、ビジネスにおける最終的な到達点を示している。すなわち、経営目標に貢献できるITインフラを構築することである。そのためにはITサービスの仮想化による"クラウド型"の実現やサービス指向の導入、一体化されたサービス管理などを実現する。

さらにザイトラー氏は、次世代エンタープライズ・データセンターを実現するために「継続的なITの追求を続けていく」とした上で、IBMは現時点で3つの点に対して大きなイニシアチブを持っていると語った。

1つ目は「オープン」ということ。同社ではオープン・コミュニティやインターネットテクノロジー、クラウドコンピューティングなどに対するコミットメントによって、新たなイノベーションを積極的に活用できる体制を整えている。

2つ目は「顧客とのコラボレーション」。同社ではパートナー企業と協力して、すでに700以上のエネルギー効率に優れたデータセンターの取り組みや1万を超えるITの最適な取り組み、5500を超えるSOAの取り組みを実施しているという。

3つ目は「リーダーシップ」で、特に仮想化に対してはシステムの仮想化だけでなく仮想化環境の管理の面でも強いリーダーシップを発揮しているとのことだ。その一例として昨年11月に発表された「IBM Blue Cloud」や、メインフレーム「System z」などが挙げられる。

IBMではこの3つのイニシアチブを基にして、同社の提唱する「次世代エンタープライズ・データセンター」を推進していく考えだ。そしてこのモデルの実現に向けた取り組みの1つとして、講演の最後にはザイトラー氏と大歳氏によってSystem zの新シリーズである「System z10」が全世界で初めて発表された

世界で初めて公開されたSystem z10