内閣府は少子化対策の取り組みの一貫として、2007年7月から「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」を開催してきた。
同会議には、内閣官房長官をはじめ、内閣府特命担当大臣(少子化・男女共同参画)、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、総務大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、日本経団連の御手洗冨士夫会長ら団体の代表者、および有識者らが参加。仕事と家庭・地域生活の両立が可能な"ワーク・ライフ・バランス"実現のための政府が目指す方針や行動指標の策定、推進策などが検討されてきた。2回目が開催された2007年末には、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」および「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進のための行動指針」が策定された。今や企業の成長や経営課題として捉えられることも多くなったワーク・ライフ・バランスについて、国はどのような基準を設けているのだろうか。
「仕事と生活の調和 憲章」では、今なぜ仕事と生活の調和が必要なのかを規定している。仕事と生活が両立しにくい現実として、
- 安定した仕事に就けず、経済的な自立ができない
- 仕事に追われ、心身の疲労から健康を害しかねない
- 仕事と子育てや両親の介護との両立に悩む
といった問題を抱える人が多く見られることを挙げている。またその背景として、国内外における企業間競争の激化や、長期的な経済の低迷、産業構造の変化により、生活面での不安を抱える正社員以外の労働者が大幅に増加する一方で、正社員の労働時間の長さが改善されないままである、といった二極化した働き方の現状を指摘する。さらに、女性の社会進出や結婚/出産後も働き続ける女性が増えたことなど、社会の価値観や意識の変化が生まれている一方、働き方や子育て支援のための社会的基盤が必ずしもそれに対応していない点も重要な要因の1つだとしている。
このような社会的ジレンマに対して、ワークライフバランスという考えのもと解消につなげたいと宣言するのが今回定められた憲章の意図だ。また、ワークライフバランス実現のその先には、少子化の流れを変え、人口減少下でも多様な人材が仕事に就けるようにし、日本の社会を持続可能で確かなものにするという狙いがある。一方、人口の減少に伴い、有能な人材の確保が困難になりつつある中で、企業にとってワークライフバランスの推進は"コスト"ではなく、"明日への投資"であるという認識のもと、官民一体となって取り組みを進めていく必要性を訴えている。
また憲章では、ワークライフバランスが実現した社会の姿を、
- 就労による経済的な自立が可能な社会
- 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
- 多様な働き方・生き方を選択できる社会
の3点に定めている。
一方、こうした考え方に基づく、具体的な取り組みを定めているのが、仕事と生活の調和推進のための行動指針だ。この中で政府は、各取り組みに対する、5年後、10年後の目標数値を施策ごとに具体的に定めている。
例えば、高齢化社会に伴い、今後は60歳以降も働き続ける必要性が叫ばれているが、60歳以上の高齢者の就労率を、60~64歳で現状の52.6%から10年後の2017年には60~61%に、64~69歳で34.6%から38~39%にそれぞれ引き上げることを目標としている。また、2003年のピーク時には217万人だったフリーターの数を10年以内に2/3となる144万7,000人以下にまで減少させるなど、就労による経済的な自立が可能な社会への改善を図りたいとしている。
そして、健康で豊かな生活のための時間を確保するための施策では、現状10.8%におよぶ過労働時間60時間以上の雇用者の割合を、5年後の2012年に2割減、2017年に半減を目指すとしている。さらに、年次有給休暇取得率を現状の46.6%から2017年には100%に、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合を23.5%から80%にまで引き上げたいとしている。
また、多様な働き方という観点では、政府のIT戦略本部がすでに定めている2010年までのテレワーカー(在宅事業者/在宅勤務者)比率を現在の倍となる20%とする数値目標以外にも、第1子出産前後の女性の継続就業率を38%から55%へ、男女の育児休業取得率を、女性で72.3%から80%に、男性で0.5%から10%に、それぞれ増加を図る。さらに、子育て中の労働者にとって必要不可欠となる、保育などの子育てサービスの提供割合は、現在、3歳児未満の保育サービスで20.3%、小学1~3年生までの放課後児童クラブ(学童保育)で19%だが、これらを2017年にはそれぞれ38%、60%にまで増やす目標を設定している。そのほか、企業の姿勢について、職場風土改革の必要性が謳われているのも特筆すべき点だ。「経営トップがリーダーシップを発揮し、管理職は率先して意識改革に取り組み、労働者側も職場の一員としてこれに努めなければならない」と明言されている。