松下電器産業は、液晶パネル事業を行うIPSアルファテクノロジの新工場を兵庫県姫路市に建設すると発表した。これは、昨年12月25日に日立製作所およびキヤノンと基本合意した液晶ディスプレイ事業における包括提携に基づいたもの。
2008年8月から着工し、2010年1月より稼動する予定。第8世代のマザーガラスでの生産を行い、フル稼働時には、32インチ換算で約1500万台を生産できるという。現在のIPSアルファテクノロジの茂原工場の600万台(2008年9月見込み)と合わせて、年間2,100万台の生産体制となる。
将来的には有機ELディスプレイへの展開も視野
新工場では、32インチに最適化したパネル生産ができるほか、「40インチ台を視野に入れた生産も行っていく」(IPSアルファテクノロジの米内史明社長)としている。シャープの亀山第2工場も第8世代の生産設備となっており、46インチでの効率的な生産が可能になるパネルサイズだ。
松下電器では、37インチまでを液晶テレビとしているが、「地域ごとの需要や、顧客の好みの変化によって、40インチ以上の液晶テレビを作ることを考えていないわけではない」(松下プラズマディスプレイ社長の森田研氏)としており、今後の松下電器の液晶テレビ戦略の重要な拠点となる。また、「液晶パネルと技術的共通点が多い有機ELディスプレイパネルの生産も視野に入れたものになる。将来的にはIPSアルファの新工場で有機ELディスプレイへの展開を視野に入れ、薄型テレビ事業における垂直統合型ビジネスをより積極的に推進する」(同)として、将来に向けた薄型パネル事業における垂直統合体制確立のための役割も果たすことになる。
投資額は約3,000億円
建設予定地は、兵庫県姫路市の旧出光興産兵庫製油所跡地で、敷地面積は48万平方メートル。JR姫路駅から南に約6.5km。最寄り駅となる山陽電鉄の妻鹿駅からは約1.5kmの距離だという。一時はシャープが次期液晶パネル工場の生産拠点として検討した場所だ。「関西空港、神戸港、姫路港が近く、海外拠点へのアクセスが便利なこと、ガラス、カラーフィルタをはじめ、部材・薬液供給メーカーが隣接していること、関西電力、大阪ガスといったユーティリティ供給会社に隣接し、安定供給が期待できるなどのメリットがある」という。投資額は約3000億円を予定しており、全額を松下電器が投資する。
高い生産性を実現
新工場では、TFT・LCD棟、モジュール棟、カラーフィルタ棟、ユーティリティエリアの建設を予定しているが、「まだ広大な敷地があり、拡張の余地がある。コンビナート的な形を形成し、輸送コスト削減、短TAT、在庫低減といった観点からコスト競争力を高めることができる」(IPSアルファテクノロジの米内史明社長)という。
また、茂原工場で培った工程転宿プロセスや高精度検査修正技術を活用することで、高い生産性を実現することから、投資効率を高められるとした。「他社の第8世代工場に比べて、2割以上の投資効率化を図れる」(米内社長)、「償却費を支払っても、固定費の削減が図れ、他社に勝てる」(森田社長)としており、シャープが堺で建設予定の第10世代のパネル工場に比べて周回遅れとの指摘に対しても、主力となる32インチでの競争力を理由に反論した。 米内社長は、「IPSαパネルは、原理的に優れた視野角特性を誇っており、画素分割をする必要がないという特徴があり、駆動用ICドライバを少なくできるほか、高い透過率を実現できる。結果として、材料コストの低減や、明るく見やすい画面を実現でき、他社の液晶パネルに比べて競争力が発揮できる」と、IPSαパネルの特徴を強調してみせた。
IPSアルファテクノロジは松下電器の連結子会社に
一方、松下電器は諸条件が整い次第、日立ディスプレイズが保有するIPSアルファテクノロジの発行済株式全株を含む、大型IPS液晶パネル付随事業を660億円で取得。日立は10%を上限にIPSアルファテクノロジの株式保有を検討することを明らかにしたほか、IPSアルファテクノロジは3月31日付けで松下電器の連結子会社になることを発表した。
松下電器によると、薄型テレビ市場は2015年には2億台を超える市場へと成長すると予測しており、そのうち、37インチ以上の構成比が50%松下電器、IPSアルファを越えると予測している。松下電器では、37インチ以上の市場において、25%のシェアを獲得する考えで、今回の液晶新工場は、地盤づくりに大きな役割を果たすことになる。