ペットの体内にRFIDを埋め込んで管理する――このほど、韓国政府からこのような方針が発表された。政府側は「生態には無害」と主張。これに対して、インターネットでは不快感をあらわにする声なども出ている。
ペットの管理に生態注入型RFIDを使用
韓国政府の産業資源部 技術標準院(以下、技標院)は、ペットの管理に生態注入型RFIDを使用し、その際に必要なペットの識別番号「動物RFID識別番号」の標準化を行うと発表した。日本でも社員カードなど、RFIDを用いた個人認証システムがあるが、これを韓国全土のペットにも適用しようというのだ。
生態注入型RFIDとは、ペットの皮下に注入して使うRFIDのことだ。体内に注入する際は、注射器を使用する。使用される生態注入型RFIDのサイズは長さ8mm、直径2mm。技標院によると、RFIDはバイオガラスで覆われており「生態には無害」という。さらに、RFIDを体内に埋め込むことにより、紛失や廃棄、偽造、変造といった可能性が少なくなるとしている。
生体注入型RFID(韓国 産業資源部の資料より) |
「動物RFID識別番号」は、1匹1匹のペットに与えられる固有の番号である。具体的には64ビットの数字であり、これにより2,700億匹までの番号を付与できる。動物RFID識別番号とペットの所有者、血統、健康状態などの情報はデータベースで一元的に管理する。
技標院はこのために「KS規格」(Korean Industrial Standards:韓国の国家標準)を全面的に改定する方針だ。改訂版のKS規格は、ISO国際標準で規定されている「動物個体識別分類基準」をもとに策定。さらに「動物個体識別コード運用規定」や、この規定を運用する管理機関も制定する予定。
ペットを取り巻く社会問題
技標院によると、ペットのヤミ取り引きや、ずさんな疾病管理、そして捨てられるペットの増加が深刻な社会問題になっている。そのため、ペットをRFIDで管理し、これらの問題を解決したい考え。またRFIDにより、行方が分からなくなったペットを探し出すことも容易になる。
こうした方針の裏には、2008年1月末に改定・施行された「動物保護法」の存在がある。同法では、ペットを飼う際には自治体に登録し、ペットに名札を付けることなどが義務付けられている。登録されたペットを管理するのは、ソウルをはじめ全国250の地方自治体だ。自治体がペットの管理にRFIDを使用できるよう、技標院が動物RFID識別番号の標準化を行うというわけだ。
賛否両論 - 十分な議論を
こうした方針に対して、インターネット上にさまざまな意見が書き込まれている。
例えば、「ペットのためとは言うけれど、ペットを愛している人なら、こんなものを体に入れるのに抵抗感がないはずがない」「安全だとはいえ、これを人に注入すると考えてみて」といった不快感をあらわにする人。「もともとは無責任に捨てる飼い主が悪い」と無責任な飼い主を責める人。「(ペットを捨てるため)チップを壊そうと、残酷なことをするやつが絶対にあらわれる」と憂慮する人など、否定的な意見が多い。一方で「捨て犬に子どもが咬まれて死ぬ被害もあるのだから、(こうした被害を防止するためにRFIDは)いいことだ」という賛成派もいる。
動物関連団体などからは、今のところ公式な意見表明などは出ていないが、何らかの形で論議は起こるだろう。技標院でもKS規格改定は、関連政府部署や自治体からの意見聴取を行ったあとにするとしている。早ければ今年(2008年)6月にも改定が予定されているが、ペットが家族の一員としてより身近になっている今、各方面で十分な議論が必要なようだ。