日本IBMの大歳卓麻社長は、2月12日、報道関係者を対象に、2008年の事業方針について説明した。その中で大歳社長は、「お客様のイノベーション実現」「オープンテクノロジーと高付加価値ソリューションの提供」「グローバルに統合された企業への進化」を、2008年の重点ポイントにあげた。
「お客様のイノベーション実現」では、直販営業部門とビジネスパートナーとの重複を避けるために顧客担当を明確にする「お客様担当制の強化」を実施するほか、サービス担当者を業界やサービスソリューションごとに担当を明確にする「サービス提供体制の強化」、製品ブランドごとに分かれていたシステム営業体制を、大手企業、中堅企業、個人企業担当という形に再編した「システム製品事業の体制強化」に加え、幕張データセンターの拡充や2009年秋に本社移転が予定されている箱崎事業所のリニューアルに取り組むという。「箱崎事業所では、社員とお客様との動線を分けたり、顧客のトップに気持ち良くセミナーを受講していただけるような体制を整えたい」としている。
また、未来価値創造事業部門を新設し、IBMが持つすべて能力を、業種、組織の枠を越えて結集させ、革新的な提案を行う体制を作ることを目指すという。「2007年、サービスイノベーション事業部を設置し、銀行、保険、自動車、電機、社会基盤といった各業種におけるプロを集めて、さらに、世界中のケーパビリティを投入し、顧客の経営を抜本的に解決する提案を行う仕組みを作った。まずは25人のチームでスタートしたが、これを5倍規模に拡大する。短期のビジネスに集中するのではなく、全社をあげて、社会に大きな変化をもたらすことをやっていくつもりだ」などとした。
オープン・テクノロジーと高付加価値ソリューションの提供では、日本IBMから100人を投入しているグローバルな取り組みである「Project Big Green」の強化のほか、すでに三菱東京UFJ銀行や全日空、三井倉庫などで実績があがっている「SOA推進」を、顧客の企業規模や業種にあわせたソリューション提供、中堅企業への支援強化へと拡大するのに加え、世界中のベストプラクティスを活用し、5つの分野にフォーカスして展開する「アセット/サービスプロダクトの推進」、ISSやCognosの買収に代表されるような「テクノロジー/スキルの強化」に取り組んでいくとした。Project Big Greenでは、IBMの会計部門において3900台のサーバを30台のサーバに置き換え、消費電力を8割削減し、5年間の管理コストを300億円削減するという効果を発揮したという。
グローバルに統合された企業への進化としては、新グローバル時代の新たな働き方として、大歳社長自らが委員長となったダイバシティ委員会を今年に入ってから発足。「女性」「ワークライフバランス」「障害のある人々」「セクシャルオリエンテーション」「マルチナショナル」という5つのカテゴリにおいてそれぞれ担当役員を配置し、人材の有効な活用のほか、グローバルリーダーの育成などに取り組んでいくという。また、今後の社会の方向性を示す「GIO 3.0(グローバル・イノベーション・アウトルック)」の発信や、今後5年間に実用化される技術を5つの分野から提示する「Next 5in5」の発表など、日本からの世界に向けた発信にも力を注ぐとした。
一方、大歳社長は、2007年の取り組みについても総括。「お客様中心」「グローバル品質」「信頼と責任」の3つの観点から振り返り、それぞれの成果について語った。お客様中心では、経営モデルの変革として、日本IBMが、米国本社の直接管轄となった成果を示した。「G7の国と振興国との成長率に大きな差が出ており、アジアという1つの枠では捉えられなくなってきた。アジアは、日本とその他の地域として、欧州も2007年の段階で2つに組織を分けた。米州も今年から分割することになる。直接、米国本社と結びついたことで、上を向いてやる仕事が1/3から1/4程度減っている。その分、顧客を訪問する時間が増えている」とした。
また、顧客支援体制の強化としては、従来、業種別営業および製品/サービス別営業という形にして体制では、重複部分や、逆にカバーできなかった部分が散見されたことで、これを見直したという。「システム導入後のサービス、サポートを専任担当者に移行させることで、営業担当は、その会社の別の事業部門、別の研究開発組織の課題発掘、提案、開発に目を向けられるようになる。営業が、発見、発掘に時間を割けるようにするための組織づくり」とした。さらに、社内営業支援体制の強化として、見積書作成などの事務業務を担当する専門の組織を作ったほか、導入後の顧客とのやりとりなどを担当する保守部門を切り分け、保守責任を分離、明確化することで、営業活動に集中できるようにした。「営業の4割が保守に回っていたが、これが1割に減ったほか、顧客に割くことができる時間が1割増え、新たな技術などを勉強できる時間が5割も増えたという成果が出ている」という。
「グローバル品質」では、テクニカル・リーダーシップ・オフィスの設立をあげ、技術動向と経営とを表裏一体に捉えた提案や、ユーザー企業のCIOを対象とした技術基点のツアーの実施などを挙げた。また、グローバルデリバリの拡大とデリバリフレームワークの展開として、2006年は1400人規模だった中国、インドなどにおける日本IBM向けのソフト開発要員が、2007年は2700人に拡大したことや、購買/経理などを担当するクアラルンプールや大連の社員が300人体制から、400人体制に拡大したことなどをあげ、「世界規模での作業分担を進めている」とした。この手法がユーザーにも広がっている例としてオムロンを取り上げ、「オムロンはデータセンターは大阪だが、運用管理は深セン、開発は上海、ヘルプデスクは沖縄から行っている」などとした。さらに、日本のプロジェクト管理手法をグローバルに展開していることを示し、日本ならではのプロジェクト管理の観点から、品質向上を図っていることを示した。
「信頼と責任」では、グローバル人材プログラムの拡充と利用者の拡大として、2006年は約500人だった、短期および中期の海外における人材育成プログラムの参加者が、約2500人と急拡大した実績を示したほか、オープンソースコミュニティに対して、アクセシビリティのためのソフトウェア基盤を寄贈したこと、オンデマンドコミュニティと呼ばれる社員ボランティアプログラムを実行し、社員および退職者を含めて、現在でも5450人が参加。延べ15万時間のポランティア活動が行われていることを示した。
一方、大歳社長の社長続投に関する質問が飛び、大歳社長は自らの進退には触れなかったものの、「常に、候補者を見直しており、それを米国本社と共有している。日本人しかいないのか、アジア人は考えられないのか、といった議論もしている。社長の条件としては、実行力が一番であり、指示をするだけでなく、自らやってみせるということが必要。また、顧客の問題を解決するために、世界中のIBMのアセットやケーパビリティを注ぎ込めるリーダーシップが必要」などと語った。また、IT投資の減速感については、「企業の決算は良くても、ホッとした顔をした経営者はいない。環境変化が激しく、今までのやり方がそのまま通用すると思っている経営者はいない。この変化をシステムが支えなくてはならず、結果として、IT投資の失速はないと考えている。また、製造業を例に見ても分かるように、投資先は国内から海外にシフトしているという変化もある。いずれにしろ、顧客のイノベーションを手伝い、事業そのものを喚起していくという形には変化がない」とした。
日本IBM 代表取締役 社長執行役員 大歳卓麻氏 |
なお、大歳社長は、企業のモデルは、GIE(Globally Integrated Enterprise)の方向へシフトしており、先進企業はグローバルに統合化された環境での企業経営へと進化が図られている段階にある、とし、「IBMは、Multinational CorporationからGIEへの移行を進めている段階にある」と語った。