NECは4日、プログラムの変更だけで周波数特性を自由に変更することが可能なアナログベースバンド(ABB)LSI技術を開発したことを発表した。同技術は半導体集積回路技術の国際学会「ISSCC2008」でも論文発表される。

同技術は、「複数の無線を1つの機器でシームレスに使うことで、どのようなネットワークでも楽に接続することができるようにする」(同社デバイスプラットフォーム研究所 研究部長 深石宗生氏)ことを目標としたソフトウェア無線の実現に向け開発された技術。

NEC デバイスプラットフォーム研究所 研究部長 深石宗生氏

従来、携帯電話などの無線機器は、複数の通信規格に対応するために3GであればW-CDMA、2GであればGSMなどのようにそれぞれの規格に即した専用のチップを搭載する必要があった。しかし、携帯電話の高機能化が進み、ワイヤレスLANやBluetooth、GPS、ワンセグTVといったさまざまな無線規格に対応したLSIが搭載されるようになり、実装面積は増大の一途を辿っている。ソフトウェア無線は、1チップのデバイスを、ソフトウェアの変更だけで、複数の無線規格にチップの機能を変更する技術であり、デバイス搭載数の削減による小型化、省電力化などが期待できることから、各所で開発が進められている。

携帯電話における信号の入力は、RFフロントエンドで周波数を変換、ABBで不要な信号(妨害波)を除去、所望信号だけを抽出した後、AD/DAコンバータおよびデジタルベースバンドで信号処理されることとなる。この中で、妨害波の除去は、通信規格により、周波数の幅や近接する妨害波の強度が異なることから、複数の通信規格を扱う場合、それぞれにあったフィルタを複数用いる必要があった。だが、それでは回路面積が大きくなってしまうという課題があった。

信号入力の概念図(ABBで妨害波が除去される)

NECでは今回、電流パルスのスイッチをオン/オフ制御する"パルス幅の時間制御"を実現することにより、フィルタ特性を400K - 30MHzまで可変することを可能とした。具体的には8つの可変フィルタコアを搭載することで、デジタル制御パルスをコア回路ごとに独立制御し、特性の再構成を実現している。これにより、通信規格ごとに必要だったフィルタを1つの機能ブロックで代替することが可能となるほか、将来的に新しい通信規格が登場しても、切り替えが容易になる。

可変フィルタの全体図

試作されたデバイスは90nmのCMOSプロセスを用いて製造された。フィルタ構成の切り替えは250MHzの動作周波数で行われる。今回は試作という意味合いもあり、ABB単体のデバイスが試作されたが、将来的にはSoC(System on a Chip)やCoC(Chip on Chip)などによる1チップ化を進める予定。ただし、ソフトウェア無線を1チップで実現するためには「少なくともあと3年はかかる。今後はフィルタの改善を中心に次のステップを目指す」(深石氏)としており、複数の通信アプリケーションを同時に使えるようにする可変性の実現などを進めていく計画だ。

試作されたデバイスの詳細