富士通研究所は4日、ISSCC2008において標準CMOSプロセスを用いたミリ波帯出力増幅器を開発したことを発表した。同技術により、ミリ波帯を利用した車載レーダなどに対し、ミリ波帯増幅器とベースバンド回路の1チップ化による小型化への道筋が開けることとなる。

試作された77GHz動作増幅器のチップ

これまで、ミリ波帯を用いた通信システムの信号入力口であるRFフロントエンド回路には、高周波での信号増幅機能などが必要とされることから、シリコン半導体ではなく化合物半導体が用いられてきた。今回開発された技術は、シリコン半導体を用いたCMOSプロセス技術でミリ波帯増幅回路を実現させるもの。従来は、ミリ波信号の損失が大きいため、実現が困難とされていた。

具体的には、2つの設計技術を確立したことにより実現している。1つ目は、ミリ波帯でのトランジスタの動作特性を表現できるトランジスタのモデルの確立とそのパラメータ抽出技術を開発したこと。また、配線や容量素子などの回路に用いられる受動素子の構造を最適化し、抵抗損失の少ない構造も実現している。2つ目は、回路の小型化を実現するショートスタブによる整合回路を開発したほか、信号損失を低減するため電源供給回路と整合回路を一体化したこと。これにより、整合回路において、従来に比べ、チップ占有面積を1/10まで縮小したほか、信号損失を0.4dB低減することに成功した。

これらの技術により、90nmの標準CMOSプロセスを用いた77GHz動作の増幅器を試作、増幅率8.5dBならびに飽和出力6.3dBmが確認された。また、60GHz動作では、増幅率8.3dBならびに10.6dBmの飽和出力が確認されており、これにより、標準CMOSプロセスを用いた車載レーダが実現可能となる。

77GHz動作増幅器の入出力パワー特性

同社では今後、標準CMOSプロセスを用いた増幅回路のさらなる高出力化や変調器などを集積した送受信回路の開発を進めるとしており、ミリ波帯を用いた車載レーダシステムや無線通信システム用LSIなどの実現に結び付けていく構え。