ダボス会議で講演するBill Gates氏 |
米Microsoft会長のBill Gates氏は1月24日(現地時間)、スイスの保養地ダボスで開催中の「世界経済フォーラム(World Economic Forum)」で「A New Approach to Capitalism in the 21st Century (21世紀の資本主義への新しいアプローチ)」と題した講演を行った。開催地の名称から「ダボス会議」とも呼ばれる同フォーラムには世界中の指導者層や企業幹部、知識人などが毎年何千人も集まり、さまざまな世界問題をテーマに議論を進める。Gates氏はこの中で富の偏在による現状の問題を訴え、政府やNPO、企業が協力して資本主義をよりよいシステムへと変革させる「Creative Capitalism(創造的な資本主義)」という考えを披露した。
「わたしがMicrosoftのフルタイムワーカーとしてこの会議に出席するのは、これが最後です」という挨拶でスタートした同氏のスピーチは、これまで自身が成し遂げてきたものとは別の革新の必要性を訴えるものだった。
「わたしが過去何十年を振り返ってずっと考えてきたことは、ソフトウェアの魔法で世界をいかに変えるかということだった。実際、そうした技術が社会の問題を解決し、何十億もの人々に貢献する……そう信じてきた。だが現実は、技術が経済的な需要がある場所にのみ行き渡り、技術にたどり着く術のない人々は、そうしたものとは無縁の生活を送っている。もしこのような人々の生活を変えたいのであれば、技術革新だけではなく、何か別のレベルの革新が必要なのではないか。その考えについて、今回は参加者の皆さんと討論したい」(Gates氏)
「確かに世界はよくなっている。過去にないほど住みやすい場所になっている。考えてほしい。女性やマイノリティが社会活動に参画し、100年前と比較して寿命は2倍に延びた。人々は選挙に行き、これまでにない自由を満喫している。これらは技術革新によって成されてきた。今後数十年でさらに医療や教育が進展するだろう」と、世界がよりよい方向へ向かうという見通しを示した。
「わたしは楽観主義者だが、同時にせっかちな人間でもある。現状のスピードに満足していないし、このままではすべての人々に行き渡るものではないだろう。世界の先進地域が富の偏在を加速させ、一方で日々の生活費が1ドル未満で水や食料さえ満足に得られない人々がいる。純粋な資本主義では、人々が豊かになればより社会が豊かになり、人々が貧しくなれば停滞、やがてゼロへと向かう。われわれは豊かな人々と同様に、貧しい人々にも貢献するような道を見つけなければならない」と付け加えた。同氏はスピーチの直前に米Wall Street Journalとのインタビューに応じ、「社会の便利な仕組みは豊かな人々へと向かう傾向があり、すべての人々には行き渡らない」とコメントしており、これが今回の発想の原点だったと説明している。
「だが企業のミッションを考えれば、こうした人々への活動が必ずしも利益に結びつくものではない。そこで市場的な別のメリットが必要となる。それが"評価"だ。こうした評価は企業の評判を上げ、顧客へのアピールとなる。こうした企業に優れた人々が関心を持ち、新たなメリットが生み出される。利益と評価……政府や企業、NPOが共同でこうした世界の問題を解決する新しい社会システム、これを"Creative Capitalism(創造的な資本主義)"と呼びたい」と、一致団結した新しい社会システム構築の必要性を訴えた。
企業として、こうした問題に日々向き合うことも重要だ。同氏はMicrosoftの社会活動として、ソフトウェア製品の無償提供や低価格版の提供など、より多くの人々が技術に触れる機会を設けてきたと説明した。また、インドの研究所で開発された文字なしのユーザーインターフェイスなどを用いて、読み書きが行えない人々を支援する試みも紹介した。
Microsoftの代表としての活動を2008年7月に終了し、以後は夫人とともに設立した慈善団体「Bill & Melinda Gates Foundation」の活動に注力する予定のGates氏だが、医療関係や途上国への支援事業に加え、Microsoftでも引き続き一部のプロジェクトに関わる予定だという。「人々の生活をよりよいものにしたい」というアイデアは、今も昔も変わらないのかもしれない。