F5ネットワークスは1月24日、ファイル仮想化製品「F5 Acopia ARX」の国内展開に関する戦略説明会を開催した。F5は2007年9月13日にAcopia Networksの買収を完了しており、同社の製品であったAcopia ARXを獲得、2007年12月11日に国内でも販売を開始している。

まず登壇したF5ネットワークスの代表取締役社長の長崎 忠雄氏は"ファイル仮想化"という、一見するとストレージ分野とも見える製品をラインナップに加えたことに関して、同社が"Application Delivery Network"に注力し、Microsoft、SAP、Oracleなどと協力関係を確立している「アプリケーションに焦点をあてたネットワークベンダ」であるとし、ユーザから見たアプリケーションの利用環境を最適化するという観点からは、同じ流れに位置付けられるものだとした。なお、F5 Acopia ARXによるファイル仮想化市場への参入に関し、同氏は「数年以内にこの分野のマーケットリーダーになる」という目標を掲げている。

F5ネットワークスジャパン 代表取締役社長 長崎 忠雄氏

続いて、米F5 NetworksのSenior Director, Markething Data SolutionsのKirby Wadsworth氏が、F5 Acopia ARXの詳細について説明した。まず同氏は市場の状況を簡単に概観し、ストレージ価格のTB当たりの単価が下落するのと歩調を合わせてユーザが保有するストレージの総TB数は急増しており、「ファイルベースのストレージ容量は年間50%以上も増大している」というデータもあるほどだという。この状況を踏まえて同氏は、「すでにストレージの管理は人間の能力を超えており、"テクノロジをもってテクノロジを管理する"必要がある」のだとした。

米F5 Networks データソリューション事業部 マーケティング担当シニアディレクター カービー・ウォズウォース氏

F5 Acopia ARXは、分散したストレージ上のファイルに対してグローバル・ネームスペースを提供し、ユーザがファイルにアクセスする際に物理的なストレージデバイスの存在を意識する必要がないように仮想化する。対応するプロトコルはCIFSおよびNFSで、基本的にはIPネットワーク上でのファイルアクセスへの対応となる。ストレージデバイスに関しては、CIFSないしはNFSでアクセスできるファイルサーバであれば基本的にマルチベンダ製品に対応する。いわば、ファイルアクセス専門のプロキシとして動作するようなイメージだ。

ファイルストレージの仮想化技術の概念

データセンター仮想化の展開図

ファイルストレージ仮想化の特徴

ファイルストレージを仮想化した場合のイメージ

物理的なストレージデバイスと、ユーザから見えるファイルが切り離されることによるメリットとして同氏が挙げたのが、「マイグレーション」「ティアリング」「ロードバランシング」の3点だ。

マイグレーションは、ストレージデバイスの更新などの場面を想定したもの。従来の環境では、ストレージデバイスを変更する際には一時的にアクセス出来ない時間が生じるし、場合によってはユーザから見えるストレージデバイス名が変わってしまうことでユーザ環境の変更も必要になる可能性がある。F5 Acopia ARXによる仮想化機能によって、データマイグレーションの作業中も適切なファイルの実体へのアクセスが確保されることに加え、グローバル・ネームスペースの提供によってファイル名の一貫性も維持される。同氏によれば、多くのユーザ企業がこの機能を導入の重要なポイントとして挙げているのだという。

ティアリングは、Information Lifecycle Management (ILM)などで実現されてきた機能で、よくアクセスするファイルを高価だが高速なストレージに置き、アクセス頻度が低いファイルは相対的に安価だが低速なストレージに移してストレージを階層化し、コストパフォーマンスを最適化するという発想だ。F5 Acopia ARXでは、この階層化を事前に定義されたポリシーに基づいて自動的に実行する機能があるという。ファイルの実体の格納場所が移動しても、ユーザからのアクセスには影響を与えない。付随的なメリットとして、アクセス頻度が低下し、内容の変更が行われなくなったファイルを識別できるため、これを日々のバックアップ対象から外すことでバックアップの容量を大幅に削減できるという効果も得られるという。

ロードバランシングは、物理的なファイルサーバを複数分散配置し、F5 Acopia ARXで統合することによって負荷を分散し、アクセス速度を向上させるというものだ。

こうした仮想化技術によるストレージ統合は、ストレージベンダやストレージソフトウェアベンダから各種提供されているのだが、多くはFC-SANを対象としたもので、IPネットワーク上のファイルサーバを対象とし、ネットワーク側からのアプローチで実現する例は珍しく、ユニークな存在だといえる。なお、F5 Acopia ARXは、現在エントリモデルの「ARX500」、中規模向けの「ARX1000」、データセンター向けの「ARX6000」の3種が提供されている。国内での価格は660万円から。