日本オラクルが、「Oracle Application Integration Architecture(AIA)」による攻勢を本格化させようとしている。企業が抱える課題が多様化、複雑化しているなか、同社は、企業のビジネス基盤を支えるべきITが、ビジネスの実相と需要に十分に結びついていない面があることを指摘、ビジネスとITの間に生じた隙間をSOAにより埋め、これらの課題に効果的に対処していくことを図っており、AIAをSOA導入への起爆剤と位置づけている。

日本オラクル 常務執行役員 製品戦略統括本部長 三澤智光氏

同社では、環境変化にうまく対応していくためには、企業の壁を超えて、取引先や顧客など、ステークホルダーといかにスムーズに連携し、Value Chainを完成させていくかが鍵になるとみている。ここで必要になるのは、使いやすさ、柔軟性、俊敏性であり、複数のステークホルダー間が、独立性を維持しながら相互に連携できる、柔軟な関係性の構築が重要になる。同社 常務執行役員 製品戦略統括本部長 三澤智光氏は、これらの状況が「SOAが求められる背景」と話す。

しかしSOAは、企業がその実現を希望する強さとは裏腹に、未だ、十分に成功している例は少ないようだ。同社では、SOA導入を標榜しながらも挫折した企業が多いことの要因を分析している。一般的に、SOA化に必要な手順のうち「サービス粒度の決定」「共通データモデルの設計」「ガバナンスが有効となる、全体の管理」の3点が、SOA導入の壁となっているという。これらだけではなく、業務モデルの設計からシステム実装に至るまで、「すべてを、一般の企業が一から作るのは非常に困難」(三澤常務)だ。

これらの過重な負荷から、企業を解放させることができる、システム構成の基板となるような材料があれば、SOAは普及が進むことになる。三澤常務は、SOAを成功させるために必要な4つの要素として「ツール」「アプリケーション」「フレームワーク」「導入の方法論」を挙げる。オラクルの場合、「ツール」は「Oracle Fusion Middleware」、「アプリケーション」は「Oracle Applications」、「フレームワーク」は「AIA」、「導入の方法論」は「Roadmap to SOA」がそれぞれに相当する。三澤常務は「オラクルは、これら4つをすべて1社で提供できる唯一のベンダ」と語る。

特に重要となるのは「フレームワーク」だ。Javaはいまでは、開発の要として標準的な存在だが、「すばらしい言語だと評価されていたが、なかなか現場で使われなかった期間があった」(同)。それは「フレームワークが確立していなかった」(同)からだ。しかし「開発フレームワークができて、生産性が向上し、普及した。いまのSOAは、かつてのJavaに似ているかもしれない」(同)。

では、実際に開発フレームワークとして「AIA」はどのくらい効果があるのか。同社では、パートナーの協力も得て、社内に顧客企業と同様のシステム環境を構築し、「Siebel製品」と「Oracle E-Business Suite(EBS)」とを接続するプロセスを、SOAによるカスタム開発とAIAを利用した場合の比較を試みた。その結果、工数では、前者が520人日、後者は20人日で、コンサルティング費用は前者が5,200万円、後者は200万円となるなど、工数は96%、全体のコスト85%削減できたという。

日本オラクル 製品戦略統括本部 ディレクター 大本修嗣氏

同社では、AIAとは「オラクルが提供する事前定義済みSOA」(同社 製品戦略統括本部 ディレクター 大本修嗣氏)としている。「Oracle Applications」に属する多数のアプリケーション製品群を統合し、相互間で連携させるための基盤を提供する。データベースとして「ビジネス サービス・リポジトリ」にサービスの定義が保存され、共通オブジェクトモデルや接続アダプタが用意され、異なるアプリケーション間の「言葉」を「通訳」したり、サービスを呼び出す「仲介」をし、サービスを連携させる。

このような、AIAがもたらす構造を具現化するのが「プロセス統合パック: Process Integration Packs(PIP)」だ。PIPでは、共通オブジェクト/メッセージ(XSD)、アプリケーションビジネス接続サービス(ABCS)、エンタープライズ・ビジネスサービス(EBS)などが提供される。これらは、複数アプリケーションを接続するためのデータ連携、アプリケーション固有のメッセージと、共通オブジェクトのメッセージの相互変換などの機能を備えている。PIPは通信業界向けなど10種類ほどがあるが、「今後、業種特化型、業種非依存型などを含め20 - 30種類程度は投入していく」(大本氏)意向だ。

さらに同社では、PIPと、顧客が実際に求める要件に差があった場合、一部の機能を除いた基本コンポーネントをパッケージ化した「Foundation Pack」も用意している。これは主に、オラクル以外のアプリケーションとの統合を望む企業や、SOA化の方式が未定である企業などに向けに提供される見通しで、2008年早々にも出荷が開始される。三澤常務は「AIAにより、日本でSOAが本格的に普及するための準備が整った」と述べている。