全米最大の電話会社AT&Tは12月3日(現地時間)、2008年末までに公衆電話のビジネスから撤退する計画を発表した。携帯電話のほか、インターネットや個人向け通信デバイスの普及で市場は年々縮小、AT&Tによれば1998年に全米で260万台あった公衆電話は、現在100万台程度にまで落ち込んでいる。同社は2008年末までは既存のビジネスをそのまま継続する方針で、終了までに他のサービスオプションや代替事業者に関する情報の提供を行っていくと説明する。「今回が決断のときだった。われわれは事業から撤退するが、これをカバーする独立系プロバイダが現れることを期待している」(AT&T)
街には携帯電話片手に通話する人々があふれ、音声だけでなくテキストや動画・画像のやりとりを含めてコミュニケーションの手段が広がっている。富裕層から低所得層まで幅広いユーザーに携帯電話の利用が広がり、街で公衆電話を利用する姿を見かけることは少なくなった。それと同時に公衆電話の台数はここ最近で急速に減り始め、前出のAT&Tのコメントのように、10年ほどで半分以下の水準にまで落ち込んでいる。AT&T自身も合併前の旧SBCが抱えていた全米13州でのごく小規模な事業にまで縮小しており、最後に吸収を行った地域系通信会社の米Bell Southにいたってはすでに事業から撤退していた。経済紙の米Wall Street Journalによれば、AT&Tが運用する現在の公衆電話の台数はわずか6万5000台だという。
近年は公衆電話の縮小傾向に歯止めをかけるべく、インターネット端末としての機能やSMSのサポートなど、多機能化を模索している例も見受けられる。また法改正で個人が公衆電話を運用できるCOCOT(Customer-Owned Coin-Operated Telephones)といったサービス形態も登場しており、AT&Tら大手からの事業引き受け手候補の1つと目されている。
アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明してから、ほどなくして誕生した公衆電話は瞬く間に全米に広がり、100年以上の歴史を積み重ねてきた。今後もビジネスとしては継続していくとみられるが、ベルの興した会社でもあるAT&Tが撤退を表明したことは、1つの歴史の終焉を意味する象徴的な出来事だといえるだろう。