職場における"タブー"はどこまで許されるのか - アメリカのオンライン求人サイト「CareerBuilder.com」が行ったアンケート調査で、アメリカの労働者の"常識感覚"が浮き彫りになった。

調査はCareerBuilder.comの委託で、調査会社のHarris Interactiveが今年8月に全米の5,700人を対象に行ったもので、勤務中の行為として認めるか否かの賛否を尋ねた。その結果、「勤務中の居眠り」を認めると回答した人は45%にのぼった。さらに「勤務中のアルコール摂取」についても21%がタブー視しておらず、怠惰な勤務態度に対しては寛容なアメリカ人労働者の意識が示される結果となった。

一方、「職場でのキス」を認めると回答した人が39%にのぼり、「勤務中の居眠り」並みに容認されているところがアメリカらしい実態だ。また、39%が「同僚の噂話を広めること」、18%が「勤務後の行動を詮索すること」を容認しており、"プライベートを尊重し、公私を区別する"という、従来のアメリカ人のイメージと異なる結果が少々意外だ。

さらに、驚いた結果が「会社の備品を盗むこと」を容認すると答えた割合が22%にものぼることだ。また、18%が「学歴の詐称」を認めると回答しており、これらは良識以前に場合によっては法律にも触れる問題で、日本人の感覚からすると、質問項目に加わること自体に日米のモラル意識のレベルの差が見て取れる。

これに対して、容認度が低かった質問は「他の人の仕事を自分の手柄にする」。「容認する」と答えたのは、わずか2%に留まったものの、この結果がどのような労働者の意識を示しているかを推測するのは難しい。というのも、この結果は他人の仕事に対する強い表敬意識の表れとも取れる一方で、裏を返せば"自分に甘く、他人に厳しい"意識を反映しているという見方もできるからだ。

また、勤務上のモラル認識は、概して男性よりも女性のほうが高い傾向にあるとわかった。たとえば本調査では「勤務中の居眠り」について、男性49%に対して女性が35%、「同僚とのキス」は男性44%に対して女性34%が「認める」と答えている。

こうした労働環境におけるモラルの低下について、CareerBuilder.comの人材部門のバイスプレジデントのRosemary Haefner氏は「多くの企業が職場環境のカジュアル化を進めるなかで、労働者は"カジュアル"と"インフォーマル"な感覚を錯覚し、それがオフィスにおける行動に影響しているのかもしれない」と指摘している。さらに、雇用主は勤務中の労働規範を従業員に知らしめるために十分な時間を割くべきだと提言している。

しかしながら、今回の調査が示したとおり、雇用主が求める職場規範と従業員の実際の意識は乖離している。したがって、コミュニケーションを図るだけで、勤務上のモラルについて社員との間に完全な共通認識を浸透させることは不可能だ。Haefner氏は、職場規範は明文化して社員に通達することを奨励しており、文書化すべき例として次の5点を挙げたいる。

  • 仕事をやり残さない
  • 二日酔いで出勤しない
  • 職場恋愛は受け入れるが、公私混同しない
  • 過度に強い香水の使用は避ける
  • 飲み終わっていない飲み物を捨てない

これらはいずれもかなり具体的に行動を規定した例だが、日本人の感覚からすると、小中学生の校則の一文を想起させるほど稚拙な印象を覚えるというのが正直なところだろう。しかしながら、それをわざわざ文書化しなければならないところがモラルの低さを表しているのだ。

しかしHaefner氏は、このように文書で社員の行動規範を定める際には「あまり厳格に規定しすぎず、例外を認めるなどの柔軟性を設けることが重要だ」と注意を喚起している。それに加え、社員に文書を通達する前には、弁護士に監修を依頼することを推奨している。

労働スタイルの"ダイバーシティ(多様性)"の必要性が叫ばれる昨今。自由で柔軟な働き方を求める従業員に対して企業側もさまざまな取り組みや努力を続けている。しかし、その連鎖により、人々の認識にも"自由"と"多様性"が生じ、職場のモラル意識までを変えているのは当然のことかもしれない。ゆえに、企業は多様な要素を受け入れながらも、会社として軸となる規範を細かい部分に対しても設けることにより、自由な中にも"統制"を図ることもダイバーシティを実現する上で重要となるだろう。またCareerBuilder.comでは、「企業ポリシーを明確化することにより、企業文化を醸成し、企業価値の向上にもつながる」と調査結果をまとめている。