インターネット上の悪質な書き込み「アクプル("悪"と"Reply"をつなげた造語で、悪質な書き込みという意味)」に対応すべく、7月から韓国で施行されている、いわゆる"インターネット実名制"。本人確認できた人のみが、大手ポータルサイトやメディアサイトなどに書き込みできるという内容で、「表現の自由を奪う」など論議にもなったものの、その効果は芳しいという結果報告がなされている。

韓国政府の情報通信部は、インターネット実名制の効果分析を発表した。この調査はインターネット実名制の対象となっている、計35カ所のポータルサイト、メディアサイト、UCC(User Created Contents:一般の人が直接撮影・編集した動画や写真)サイトを対象に行われたものだ。

まずはアクプルがどの程度書き込まれているのかを把握するため、35サイトの中から、ポータルサイトの「Daum」、メディアサイトの「Money Today」、UCCサイトの「dc inside」を選抜。ここにインターネット実名制の施行前/後である、5月と8月に書き込まれたコメント中に、アクプルがどの程度占めるのか割合を比較した。

その結果、全コメント中アクプルが占める割合は施行前の15.8%から施行後には13.9%に減少し、これとともに重度のアクプルも8.9%から6.7%と2.2%少なくなっていることがわかった。情報通信部では今回、アクプルを「重度(虚偽事実を伴う名誉毀損、過度の中傷を伴う人格冒涜)」と、「軽度(低俗な用語使用、デマの流布、相手を嘲笑するスラング)」の2種類に分類している。

インターネット実名制の施行前/後のアクプル比重増減の比較(情報通信部資料による)

インターネット実名制の施行で懸念されていたのが、本人確認にかかる手間などから、同制度が適用されるWebサイトの利用者数が減少と、他サイトへ流れるのではないかという点だ。

これに関してはインターネット実名制の対象サイトと対象外サイトにおける、2006年および2007年6 - 8月の、1日平均のユニークユーザーを比較してみたい。これによれば、いずれの年も7月から8月にかけて減少してはいるものの、2006年の同時期よりも多くのユニークユーザーを確保していることから、情報通信部では「インターネットサービス利用の萎縮効果はない」と結論付けている。

さらにインターネット実名制の対象外サイト17カ所における、1日平均のユニークユーザー数も調査した。インターネット実名制が施行された2007年7月から8月にかけて減少しており、他サイトからの流入効果というのは見られなかった。こうした結果から情報通信部では「利用者移動による波及効果もない」と述べている。

インターネット実名制対象の35サイトにおける、1日平均のユニークユーザー数の推移(情報通信部資料による)

インターネット実名制対象外の17サイトにおける、1日平均のユニークユーザー数の推移(情報通信部資料による)

さらにポータル/メディア/UCCというジャンル別の全Webサイトのページビュー中、インターネット実名制の対象サイトのそれが占める割合を調べてみたところ、ポータルサイトとメディアサイトに限れば、インターネット実名制の対象サイトの利用が大変多いことも判明している。

とくにポータルサイトにいたっては、全37サイト中の16サイトだけで98.9%を占めるという、ほぼ独占状態であることが明らかになった。逆にページビューの割合が低いのはUCCサイトで、48.1%と半分にも達していない。この理由としては、ポータルサイトほど大手が市場を独占している状態にない分野であることなどが考えられる。

ポータル/メディア/UCCのWebサイト別のページビュー、および全サイト中に占めるページビューの割合(情報通信部資料による)

ところで情報通信部の評価には、一部でこれを疑問視声もある。全コメント数に対して占めるアクプル数の割合が減少したとはいえ、個数だけで見れば施行前の1万924個から施行後の1万3,472個と逆に増えているほか、インターネット実名制の対象サイトにおけるユニークユーザー数も、2006年7~8月は6万6,000人の差であるのに対し、2007年7 - 8月は11万7,000人差と、減少幅が広がっているのだ。

アクプルの数、割合ともに減少するのが理想型であるとすれば、効果があったと手放しで喜べる状態ではまだないようだ。インターネット実名制が本格施行されてから、まだ2カ月程度しか経っていない今、早急な結論付けはできない状態とも言える。アクプル撲滅には長期的な対応が必要ではないだろうか。