米Entrepreneur.comは9月19日、「10年後に絶滅に直面している10のビジネス(10 Businesses Facing Extinction in 10 Years)」と題する記事を掲載している。挙げられたのは、「レコード店」「写真フィルム製造」「農薬散布用航空機」「ゲイバー」「新聞」「公衆電話」「古本屋」「(ブタの)貯金箱」「電話セールス」「コイン投入型のアーケードゲーム機」の10種だ。
ここで、Entrepeneur.comが名前通りに起業家向けのメディアであることと、米国での状況を踏まえたものだと考えれば、日本人の感覚とは違っていても当然なのだが、それにしてもこのリストはあまり精度が高くなさそうにも思われる。たしかに、これらの事業を新規に始めようと思うんだけどどう思うか、と相談されたら積極的に賛成はしかねるものばかりなのは確かなのだが。
「レコード店」絶滅の根拠として挙げられているのが、Tower Recordsの不振やオンラインミュージックストアの台頭に加え、ウォルマートの進出だ。こうしたスーパーで安くCDが買え、しかも他の買い物のついでに買えるようになれば、CD専門店は不利だという読みらしい。日本では、スーパーやコンビニで普通にCDが買える状況になるのかどうかよくわからないが、10年でリアルのCD店がまったくなくなることはなさそうだ。
「写真フィルム製造」も、日米で大きく状況が異なる分野だと言えそうだ。記事では、「現時点で参入するのに適切な事業とは言えない」「2006年5月からの1年間で、デジタル写真のプリント量は34%増だが、フィルムカメラの販売量は49%減」「米国のインターネットのユーザーの70%がデジタルカメラを所有」といった具合だ。この傾向は日本でも同様で、銀塩フィルムの市場が急速に縮小しつつあるのは間違いない。とはいえ、少なくとも日本では銀塩フィルム製造市場はそもそも簡単に参入できるような事業ではなく、起業家が検討対象にするような分野ですらないだろう。大判のポスターなどではまだ銀塩フィルムの需要が根強く残り、トップメーカーである富士フイルムは「『写真文化』のさらなる発展に貢献して」いくと表明している。プロの支持を得たごく限られたメーカーだけが製品を提供できる市場だとみてよいだろう。米国には10年後には銀塩フィルムを製造するメーカーがなくなっているかもしれないが、これも10年では完全になくなるところまでは行きそうもない。
「農薬散布」に関しては、航空機製造なのか、散布事業そのものなのかが判然としないのだが、「平均年齢60歳」などとあるので、農薬散布飛行に携わるパイロットに注目しているのかもしれない。いずれにしても、航空機による農薬散布があまり盛んではない日本では、取り立てて心配するほどの存在感があるビジネスとも思えないところだ。農薬の空中散布は広大な農場が存在する米国ではコストメリットもあるのだろうが、農薬が周辺に飛び散ることなどもあり、なくなっても仕方ないとも思える。
「ゲイバー」についてはまったく知識がないのでコメントしにくい。記事で触れているのは男女問わず同性愛者が集まる店と言うことのようだが、同性愛が社会的に認知されるようになった結果、こうした店が不要になってきたということのようだ。10年後の予測としては、「特に良い店は残っているだろうが、そうでない店はなくなっているだろう」というもの。事情がまったくわからないので当て推量だが、そもそもこうした店は隔離場所、もしくは避難場所として機能していたのだろうか、という疑問がある。米国でよく見かけるスポーツバーのような同好の士が集まる場所としての役割はなくならないように思うのだが。
「新聞」に関する10年後の予測は、「なくなっていないが、インターネット上にある。印刷設備に多額の投資を行なうのは勧めない」というもの。印刷設備への投資はリスキーだという部分には賛成だが、少なくとも10年後も日本では新聞の宅配はなくなっていないだろうとも思う。新聞は元々、当局の圧力による発行停止に対抗するなどの理由で印刷設備も自社保有するところが多く、無視できないコストが発生しているだろうと思われる。その意味からも、印刷設備に投資するのは賢明なこととは思えない。ただし、特に首都圏では通勤途中の鉄道社内で読み、惜しげもなく捨てていけるという利便性が有利に働いている。これは、他の手段で簡単に代替するのは難しいだろう。電子ペーパー等の研究も進められているようだが、10年後にそれが主流となっている可能性はあまり高くないと予想する。