日本計画研究所(JPI)主催の特別研究セミナー「我が国の石炭政策をめぐる最新の動向とクリーン利用技術開発の取り組み」が25日、東京都千代田区のJPIカンファレンススクエアで開かれた。石炭液化技術やゼロ・エミッション石炭火力発電など、石炭の安定供給とCO2排出削減に向けた政府の政策について、経済産業省 資源エネルギー庁 資源・燃料部 石炭課の近藤裕之課長補佐が、最新の動向を説明した。

激化する石炭争奪戦、安定供給確保へ民間支援

近藤氏はまず、エネルギーとしての石炭の特徴について、「埋蔵量が150~160年分ありアジアに世界の約3割が埋蔵されるなど、石油などに比べて地域の偏在性が少なく供給安定性がある」とする一方、「CO2の排出量が多く環境負荷が高いことが課題となっている」と説明した。日本では石炭は一次エネルギーの21%を占め、49%の石油に次ぐ重要なエネルギー源となっている。また、電源構成を見ても、2004年において石炭火力発電は25%を占め、原子力(29%)、LNG火力(26%)に次ぐ重要なエネルギー源となっている。

「石炭の安定供給とCO2削減の両立が石炭行政に求められている」と語る資源エネルギー庁石炭課の近藤裕之課長補佐

旺盛な需要を反映し、日本は世界最大の石炭の輸入国となっており、2005年の石炭貿易において、オーストラリア、インドネシア、中国、ロシア、カナダの順に多くの石炭を輸入している。このうち中国については国内消費が伸び、2007年中にも石炭の純輸入国に転じることが予想されており、豪州から石炭を調達しようとする動きが活発になっている。一方、中国と並び経済成長が続くインドでも、石炭の消費量が増大、中国同様に世界各地からの石炭調達の動きを加速させている。

こうした石炭争奪戦が繰り広げられる中、政府もさまざまな海外炭の安定供給確保に向けた民間企業支援を行っている。民間企業による調査が難しい産炭国において、相手国政府機関と共同で地質構造調査を実施し、日本企業の権益取得、詳細調査実施に引き継ぐ「海外地質構造調査」、日本企業が海外で行う石炭の探査事業について、その費用の2/3を補助し、鉱区所有者との共同調査を実施するなど本格的な権益取得を目指す「海外炭開発可能性調査」などを段階的に行っている。最終的な探鉱・開発においては、国際協力銀行(JBIC)による融資・債務保証、日本貿易保険(NEXI)による貿易保険の提供などを行っているという。

さらに近藤氏は、「中国、インドネシア、ベトナムなどの産炭国においては、石炭産業高度化事業として、日本が培ってきた炭鉱技術を海外研修生に移転している」とし、その目的として「アジア地域の石炭需給安定と我が国への海外炭安定供給確保がある」と強調した。また、低品位炭が80%を占めるインドネシアにおいては、同国でのエネルギー需給の緩和と日本への輸出余力増大を目指し、発熱量が少ない低品位炭を高い発熱量を持つ石炭に変える技術の開発を行っていると説明した。

CO2削減へ向け「革新的ゼロ・エミッション石炭火力発電」への取り組みが進められている

重要な石炭調達先であるインドネシアにおいても石炭液化技術支援事業が行われている

また近藤氏は、「オイルショック以後約2000億円を投じて開発が進められてきた石炭液化技術についても、アジア地域におけるエネルギー需給緩和を目指し、インドネシアや中国で技術協力を行っている」と述べた。インドネシアにおいては、今年から褐炭を液化するBCL法に基づいたパイロットプラントの設計・建設が進められており、2020年において現在の同国における石油消費量の8%に相当する年間500万トンの生産を目標としている。

CO2排出削減へ地中貯留技術の高度化図る

一方、石炭消費における最大の課題であるCO2削減についても、政府は「環境調和型石炭利用技術(Clean Coal Technology、略称「CCT」)」の一環として取り組みを進めている。近藤氏によれば、「日本の石炭発電効率は1980年度から2005年度にかけて約2.5%上昇しており、熱効率の各国比較でも上位に位置しており、これを各国に適用すれば、CO2排出の大幅な削減が可能」という。

今年5月にはさらに、世界全体のCO2排出量を2050年までに現在の半分にする目標を安倍晋三前首相が述べ、そのための「革新的技術開発」の構想が示された。同構想の中で掲げられた「革新的ゼロ・エミッション石炭火力発電」では、石炭火力効率を現状の40%から55%に高めることにより排出されるCO2を3割程度削減すると同時に、CO2の回収・地中貯留技術(Carbon Dioxide Capture and Storage、略称「CSS」)を高め、世界のCO2排出量の3割を占める石炭火力発電からのCO2排出をゼロにすることを目標としている。

CO2の分離・回収・隔離技術については、国内では、北九州市若松区における「EAGLEプロジェクト」において重点的に開発が進められている。また、酸素燃焼技術を使い、CO2の分離回収を容易にする日豪共同プロジェクトにおいては、「オーストラリア・クイーンズランド州で行われており、IHIや電源開発(J-POWER)も参加している」(近藤氏)といい、官民一体の取り組みであることを説明した。

近藤氏はセミナーの最後に、「資源開発における人材供給が少なくなり、産学のミスマッチが増大している」とし、石炭を含めた今後のエネルギー産業の課題として、産学共同による人材育成が必要だと指摘。こうした状況を改善するため、「国際資源開発人材育成検討会」を設け、政府として大学や産業界に協力を求めていく方針であると説明した。