究極の半導体露光装置といわれるEUVリソグラフィー装置。2011年頃に量産開始を目指して現在、ASMLを中心とした欧州グループと、ニコン、キヤノンを中心とした日本グループ「EUVA(極端紫外線露光システム技術開発機構)」が実用化に向けた開発にしのぎを削っている。既にASMLはα機をIMECなどに納めている。対して日本のEUVA(技術研究組合 極端紫外線露光システム技術開発機構)は、「SFET(Small Field Exposure Tool」を完成し、Seleteで試験を開始しており、26nmパターンの露光に成功している。年内には日本初のα機である「EUV1」を完成させる予定だ。このように順調に試験が進んでいるように見えるEUVリソグラフィー技術であるが、実際はどのような状況なのだろうか。
EUVAの小川眞佐志専務理事は述べる。「やはり、十分な出力を持った光源の開発が引き続き大きな課題です。EUVAは今年度で終了の予定ですが、他の開発は概ねうまくいきつつあるものの、光源だけは世界的に見ても引き続き大きな課題として残っています。EUVAでは、EUVL用光源の開発プロジェクトを継続できるよう、国に働きかけています。」
日本では、小松製作所、ウシオ電機、そして小松製作所とウシオ電機の合弁会社のギガフォトンがEUVAの枠組みの中で光源開発に取り組んでいる。LPP(Laser Produced Plazma)方式では集光点出力40Wを達成、DPP(Discharge Produced Plazma)方式では集光点出力62Wを達成しているが、量産機では115W、あるいは180Wもの出力が必要とされており、まだまだ道のりは遠い様だ。各国の開発状況を見てみよう。
LPP光源開発のベンチマーキング | ||
---|---|---|
機関 | EUVA(日本) | Cymer(米) |
発光点出力 | 110W | 90W |
集光点出力 | 40W | 25W |
注:チャンピオンデータによる計算値を含む(出典:EUVA) |
DPP光源開発のベンチマーキング | |||
---|---|---|---|
機関 | EUVA(日本) | XTREME(独) | Philips(独) |
発光点出力 | 702W | 800W | 300W |
集光点出力 | 62W | 70-120W | 46W |
注:チャンピオンデータによる計算値を含む(出典:EUVA) |
日本はDPPとLPPの双方を研究開発しており、Seleteに納品されたSFETでも両方の光源について試験を実施、貴重な実験結果を得ているという。今年10月末に札幌で開催される「2007 International EUVL Symposium」では、噂では「Cymerが集光点出力100Wを達成したと報告する」とも言われている。どのような最新の検証結果が報告されるかが、期待される。
なお、光源出力を補うため、レジストの高感度化が重要だが、現時点では感度とトレードオフの関係にあるノイズや粗さを下げるため、感度は上げられない状況にあるといい、この点からも、光源の要求出力は高まる一方だという。
日本独自の鏡面加工技術「EEM」
波長13.5nmの極端紫外線を使うEUVリソグラフィーは、その鏡面の加工精度もかつて無いレベルが必要とされる。EUVAでは、東京理科大学と共同開発したイオンビーム加工装置に加えて、日本独自の加工技術という「EEM(Elastic Emission Machining)」の実用化にほぼ目処を立てた。この技術は大阪大学で1964年頃にその原理が着想され、その後永く研究が続けられてきたもの。現在は大阪大学大学院工学研究科附属超精密科学研究センターで開発が続けられている。通常の研磨が機械的加工であるところ、EEMは微粒子と加工物表面の微細な化学反応を利用した加工であることが大きな違いだ。着想は、加工物の上に粉を捲き、これを振動させると加工物の表面が徐々に平滑化されていくことを発見したところにあったという。EEMの利点は、通常の研磨技術と違い、加工物に機械的な力が加わらないため、表面に歪みが残らないこと。通常の研磨技術では、どんなに砥粒子を小さくしても、砥粒子と加工物の接点に微弱な応力場が残ってしまい、それが後々歪みを発生させる原因になりうるという。
現在は、超純水中にシリカ微粒子を混ぜた懸濁液の中に鏡面を置き、これに対して回転する弾性体を非接触で近づける。すると、鏡面を高速でシリカ懸濁液が通り抜け、その際にシリカ微粒子が鏡面と化学反応を起こし、鏡面の粗さが取れる。決して削り取っているわけではなく、あくまで化学反応により磨かれていく。従来の課題は加工速度が極めて遅かったこと。しかし、EUVAではキヤノン宇都宮研究開発センターにて開発を進めることで、従来より2桁加工速度を改善することができ、一挙に実用化レベルに到達したという。EUVA関係者によると、EEMの技術は海外では利用されておらず、しかし日本の成果を見て興味津々であるという。EEMによる高速加工には微妙なノウハウがあるため、今後ニコンとキヤノンの製造するEUVリソグラフィー装置の差別化技術として大切に扱い、EEM加工装置の外販は考えていないと述べる。
10月末に札幌でEUVLの国際シンポジウムが開催
取材では、「EUVAは10月に札幌で開催される2007 International EUVL Symposiumを主催しているので、現時点では最新動向を余りお話できない」とのこと。日本のEUVAとSeleteが主催し、米国のSEMATECHと欧州のEUV-CSCが共催する同シンポジウムの開催は1ヶ月後だ。EUVL技術の最新動向がどのようになっているか、気になる技術者の方々は是非ご参加頂きたい。