三菱重工業(MHI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12日、種子島宇宙センターにて「Y-1ブリーフィング」を開催し、月周回衛星「かぐや」(SELENE)の打上げを予定通り14日に実施する方向であることを明らかにした。ただ当日の天候は微妙で、今後の気象予測次第では再延期もあり得る状況であることは変わらない。

打上げ2日前に行われるY-1ブリーフィング。MHI側からは、森和久・打上げ運用副長(左)と濱俊雅・MILSET長(右)が出席

JAXA側の出席者は、高橋道夫・射場衛星主任、加藤學・ISAS教授、佐藤寿晃・企画管理主任の3氏(左から)

JAXAの気象予想によると、打上げ当日(14日)の天候は曇り時々雨。午前中は発雷の可能性もあると見ており、昨日の段階での予測からほとんど変わっていない。しかし問題となっていた東シナ海の熱帯低気圧には、雲が薄くなるなど改善の傾向が見られるということで、続行を決定した。13号機の予備日は21日までしかなく、これを逃すと夏期の打上げが不可能になることから、「ギリギリまで待とう」という意向も働いたようだ。

今日の種子島は曇り時々雨。しかし晴れ間が見えるときもあった

ところで今回から、H-IIAロケットの打上げ業務はMHIに移管されており、JAXAには「打上げ輸送サービスを提供する」という形となる。従来もロケットの製造、組立整備作業などはMHIが行っており、その部分に変わりはないが、従来JAXAが行っていた天候判断やGO/NOGO判断なども今後はMHIが主体となって行うことになる。しかし、JAXAは安全監理に関わる業務は引き続き担当しており、最終的な打上げ判断はJAXAが行う。

機体には、スリーダイヤと、「打上げ輸送サービス」のロゴマークが入る

ちなみに13号機のコンフィギュレーションは、SSBが2本の「2022型」となる

というわけで、Y-1ブリーフィングにはMHI/JAXAそれぞれから担当者が出席。司会もMHI側から出ており、移管が実感できる陣容となっていた。

MHI・名古屋航空宇宙システム製作所(名航)の濱俊雅・MILSET(三菱打上げサービス射場チーム)長からは、今後のスケジュール等についての説明があった。予定通りY-0作業に入るとすると、機体移動は13日午後9時半から、推進薬の充填は14日深夜1時からとなる見込みだ。

「かぐや」はH-IIAロケットで打上げられる初めての"探査機"となるが、ロケットのハードウェアは従来と同じで、飛行シーケンスも静止衛星を打上げるときとほぼ同じだという。ただ、衛星分離が約45分後と、静止衛星よりも遅いタイミングになるほか、月と地球の相対位置関係を考慮しなければならないため、打上げ時刻の許容時間帯幅(ウィンドウ)がないという違いはある。

打上げ後、「かぐや」は地球を2周半してから月へ向かうことになる。この理由について、JAXAの高橋道夫・射場衛星主任(SELENEサブマネージャ)は、「当初はダイレクトに行くことも考えたが、パドルの展開や軌道制御など、リスキーとまでは言わないが、かなり忙しい。より確実に運用していこうということで、この軌道を採用した」という。

「かぐや」のミッションプロファイル。ちなみに地球周回中の軌道は、静止衛星を投入するGTOよりもかなり長い軌道になるようだ(提供:JAXA)

そのため、月軌道への投入は打上げから約3週間後と遅くなってしまうが、メリットもあるという。「2周半の間に軌道上でタイミングを図れる。月の軌道に入れるためにはピンポイントでやらなければならず、ダイレクトだと非常に厳しい運用を強いられる。この軌道により、打上げのタイミングに関する柔軟性が得られた」と高橋サブマネージャ。

また前回のレポートでも書いたが、「かぐや」の目的は、月の起源と進化を解明することである。月の起源については、現在は主に4つの説が提唱されており、巨大な隕石の衝突により月が分裂したという「巨大衝突説」が有力とされている。加藤學・ISAS教授(SELENEサイエンスマネージャ)は、この論争に「決着を与えるのが一番大きな目的」と意気込みを見せる。

では「かぐや」でどんなデータが出てくればその証拠となるのかということだが、加藤教授は「中心の核が小さいこと」「マグマオーシャンがあったこと」の証明が必要だという。火星クラスの大きさの天体が原始地球に衝突したというのが巨大衝突説で、月が形成するためには1万年程度で集積しなければならず、「数千℃は軽くいくような表面温度」(加藤教授)になっていたはずだ。得られたデータを組み合わせて、これを証明していくことになる。