海外にあって、日本にないもの。さまざまなメリットをもたらすとともに、社会のシステムに混乱を引き起こし、特にITに従事する人々にとって大きな悩みの種となる……それが「夏時間」だ。夏時間は欧州を中心に「サマータイム(Summer Time)」とも呼ばれ、北米では「Daylight Saving Time(DST)」の名称で知られる。
夏時間の目的は日照時間の有効活用で、消費エネルギー削減や行動時間・範囲を広げることにある。ところが特定の日時に一斉に時間がずれることで、コンピュータ・システムの動作に大きな影響を及ぼすことになり、夏時間を実施している地域のエンジニアはその対策に追われることになる。夏時間への移行が織り込み済みであればシステム開発や修正は比較的容易だが、もし新規に夏時間の概念が導入されたり、急に期間が変更になった場合はどうだろうか? 現在、米国では、このテストケースがまさに実施されているところだ。
米国ではこれまで夏時間の実施期間は4月の第1日曜日から10月の最終日曜日だったが、2007年より3月の第2日曜日から11月の第1日曜日まで実施期間が延長されている。これは、2005年8月に成立した「Energy Policy Act of 2005」という法案によるものだ。同法案はエネルギーのより有効的な活用を目標としており、4週間の夏時間延長が明記されている。現在、延長後初の夏時間となっており、11月には初のFall Backを経験することになる。これについて米Microsoftでは9月10日(現地時間)、初のSpring Forwardを経験したユーザーからのフィードバックを基に、その総括や対策についてまとめた結果を発表した。
同社のCPE(Supportability and Customer and Partner Experience)部門バイスプレジデントのRich Kaplan氏は、2007年のSpring Forwardを経たことで、2つの大きな教訓を得たと説明している。1つは早期からの周知徹底で、ユーザーに対してどのような事態が発生するのかをきちんと説明し、対策を施していくことが重要だと訴える。Energy Policy Act of 2005が成立したとき、米国を含む世界中でこの問題が大きく取り上げられたことはなかった。本来音頭をとるべき政府や業界リーダーたちが、率先して問題を提起することがなかったためだ。
そして2つめが、影響範囲の大きさだ。今日のシステムでは単一の製品やアプリケーションで成り立っているケースは少なく、複数のソフトウェアが複雑に絡み合ってシステムを構成している。今回のようなシステム処理の根幹に関わる変更が発生した場合、その影響範囲を見定めるのは難しい。これらの問題をきちんと定義し、しかるべき処置の方法をまとめたガイダンスが必要となる。米Microsoftでは「Daylight Saving Time Help and Support Center」と題した専用ページをまとめており、ユーザーがステップ・バイ・ステップ方式で最新の関連リソースを参照できる仕組みを用意している。アンケートによれば、サービスを利用したユーザーの6割以上が必要なリソースに到達できたと述べている。
Kaplan氏によれば、多くの企業のCIOとの話し合いの中で得られた意見は「よくコミュニケーションをとること」「早めにコミュニケーションをとること」の2つだったという。早期に行動を起こし、密接な連携で問題の解決にあたるのが最良の策のようだ。
また同氏は今回のケースを例に、ユーザーに自動アップデート機能を有効にすることを勧めている。最新のホットフィクスがつねに適用されることで、こうした法令絡みの問題が解決されるだけでなく、パフォーマンスなどの製品クォリティが向上し、セキュリティ上の問題も解決されることにつながる。特に専任の管理者のいない中小企業やコンシューマユーザーでは、こうした対策が有効だという。大企業ユーザー向けには、今年初めに「Outlook Time Zone Data Update Tool」というカレンダー情報をアップデートするツールなどを提供している。