日本オラクルは、SaaS(Software as a Service)型CRMアプリケーションの最新版「Oracle Siebel CRM On Demand Release 14」を発売する。「Oracle Siebel CRM On Demand Release 14」は、ユーザーインターフェースを改め、操作性を向上させるとともに、他のアプリケーションとの統合やシステム運用環境を改善。同社によれば「100以上の機能が強化されている」という。また、テナント方式でも、同社独自技術を用いて新たな機軸を打ち出しており、SaaS型事業の本格展開に向け、積極姿勢を示している。
日本オラクル 執行役員 アプリケーション推進本部長の藤本寛氏 |
「Oracle Siebel CRM On Demand Release 14」の新たなインターフェースでは、AjaxやWeb2.0の発想を活用している。「インラインエディット機能」は、データを編集する際、表示されたWebページ内で、表のそれぞれの項目に、直接入力してデータを変更することが可能になっている。従来、このような場合には、入力のための画面を使用し、編集する項目ごとに、その都度、画面をきりかえる必要があった。「カスケードピックリスト機能」は、入力項目の選択肢をひとつ選択すると、次の選択項目では、最初に選択された項目に関連するものだけが選択肢として表示されるような設定が可能だ。同社の藤本寛 執行役員 アプリケーション推進本部長は「クライアント/サーバー型のシステムに負けないくらいのインターフェースになった」と話す。
他のアプリケーションとの統合では、オラクルの異種アプリケーション製品の統合基盤「アプリケーション統合アーキテクチャー(以下、AIA)」が軸となる。AIAでは、業務プロセスと「Oracle Applications」を統合させるための「プロセス統合パック」を用意している。たとえば、「Oracle E-Business Suite Order Management」と「Siebel CRM On Demand」の統合パックを活用すれば、販売から請求までの業務プロセスを統合することができる。
SaaSでは、インターネットを介してアプリケーションを供給するわけだが、具体的に実行する場合「テナント」と呼ばれる手法を用いる。基本的には、ユーザーそれぞれにデータベースサーバーを構築してデータを管理する「シングルテナント」と、単一のデータベース上で複数ユーザーのデータを管理する「マルチテナント」がある。「シングル」の利点は可用性が高いことだが、その分コストが低くならないといわれる。「マルチ」は、効率性が高く、迅速な導入が可能であるため、最近は主流となっているが、可用性が低くなるのでは、との指摘もある。
日本オラクル アプリケーション推進本部 ソリュ-ション推進部 ディレクターの内舘豊氏 |
今回の「Oracle Siebel CRM On Demand Release 14」では、従来のマルチテナント型に加え、よりシングルテナントに近いとされるシステム運用環境「プライベートエディション」が提供される。「プライベートエディション」は、複数のCPUで構築されるシステムを、仮想的にひとつのCPUによるシステムのよう扱える、同社のグリッド技術を活用し、データは各顧客別に構築されたデータベースシステムに格納されるため、情報セキュリティの強化、処理能力の向上のほか、システム設定、セキュリティ設定など、顧客個別のさまざまなニーズに柔軟に対応することが可能になる、といった効果が期待できるという。同社アプリケーション推進本部 ソリュ-ション推進部の内舘豊ディレクターは「顧客企業の状況に合わせたサービスを実現できる」と語る。
同社はホスティング型サービスも提供しているが「オンデマンド型(SaaS)は3週間-2ヶ月で導入できるが、ホスティングは6-9ヶ月」(藤本執行役員)を要することから、短期的にシステム導入することを望む層にはSaaSが適しているとみている。
「Oracle Siebel CRM On Demand Release 14」の目標として同社は「この分野のビジネスは昨年10月から本格化させてきたが、内部的には、最低でも昨年の5倍程度の規模にしていきたい」(藤本氏)としている。今回の製品はすでにJALホテルズが、法人営業向けの営業支援アプリケーションとして採用することが決まっており、初期の段階では数10ユーザーほどで始動、順次拡大し、いずれは、海外の拠点までも含めたシステムにしていく意向だ。
「Oracle Siebel CRM」は「全世界で、1,300社が採用、560万ユーザーがいる」(内舘氏)ほどの実績があるわけだが、やはり、SaaS型で提供するとなると、さらに付加価値が必要になる。SaaSの市場には、既存の事業者に加え、同社やマイクロソフト、SAPなど大手の新規参入も相次ぎ、競合がさらに激化するのは確実だからだ。そうした状況のなか、「テナント」のあり方は争点のひとつとなり得るが、オラクルはここに、同社が得意とするグリッド技術の要素を活かした。藤本氏は「『Siebel CRM』を強化するとともに、グリッド、さらにSOA、3つのしくみを一体化させ、変化への適応力をより高めた」と述べている。