電波法や電気通信事業法、放送法など9つの法律を再編・統合し、2010年の通常国会提出を目指す「情報通信法(仮称)」。この新法について審議を重ねてきた総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」で委員を務め、縦割りの法体系をコンテンツ・伝送インフラといったレイヤー(層)ごとの体系に転換する方向で議論を先導したのが、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の中村伊知哉教授だ。同法に関する今後の議論の方向性や、同法がコンテンツ振興に果たすべき役割について、話を聞いた。
レイヤーごとの体系を最初に提案
――研究会ではどのような意見を出されたのでしょうか
今回の中間とりまとめ案の骨子となった、レイヤーごとの体系というのは、全体の設計を示してくれと言われて私が最初にプレゼンしたもので、いわば言い出しっぺとなりました。
まず、どの範囲の話をするか最初に決める必要がありました。国内だけでも、通信や放送に関連する法律のほかにも、著作権法や情報公開法などの関係法、電気通信基盤充実臨時措置法などの振興法があります。また、条約などの国際法制との関連や、これまでは省令などだったものを民間に委ねた業界ルールなどとの関係もあります。今回は、こうした法律の中でも、主に通信・放送に関する法律を整備しようということになりました。
さらに、通信・放送に関する法律も、中身は非常に複雑なものになっています。電気通信事業法は事業法ですが、放送法は事業法ではありません。また、特殊法人ひとつとっても、NTTはNTT法、NHKは放送法が規制するなど、それぞれに方向性が異なる体系となっています。
こうした法律群を通信と放送、有線と無線などという分け方をするのではなく、情報を送る行為であるサービス、情報の内容となるコンテンツ、情報インフラとなる設備、の各レイヤーに組み替える法体系を提案し、放送の見直しや参入規制緩和などを盛り込んだ内容とする方向で、議論を展開していくことになったわけです。
――今回の中間とりまとめ案に至る議論には、どんな意味があるのでしょうか
今回の議論は、10年後の通信・放送の未来を見据えたものといえ、20世紀の宿題を解決するためのものです。私は今回、20年後の未来についてもプレゼンしました。
20年後は、あらゆる分野で、デジタル化、ネットワーク化が進んでいると予想されます。例えば、教育においてeラーニングが進めば、これはコンテンツということになり、コンテンツ規制のみならず、著作権の問題もからんできます。さらに進めば、著作権=通信コンテンツという状況が生まれてくる可能性もあり、双方を合体させたような法律をどう作るべきかというような議論も必要となるでしょう。
また、「Second Life(セカンドライフ)」のようなバーチャル空間においても、現在は実在の人間のアバターが動いているので実在の人間を規制すればいいですが、人工知能を持ち自分の意思で動き回るキャラクターなどがでてきて、商行為や破壊活動などを行った場合、どういう法律が必要となるかも考えなければなりません。
こうした未来を見据えれば、今回やろうとしている法整備は入口で、2010年の通常国会提出を目指してできるだけ早期に行う必要があり、かなりのスピードアップが求められます。
既存の法律をレイヤーごとに組み替えるだけでは意味がないので、どれだけ規制を緩和できるかが焦点となってきます。
規制緩和で1つの免許で複数事業が可能に
――今回の中間取りまとめ案がメディア規制になるという意見もあります
メディア規制だという意見は確かにありますが、米国やフランスなどと比べると、日本には現在コンテンツに対する規制はほとんどないと言える状況にあります。現在でもネット系のコンテンツに関しては業界でのルールもあり、こうしたルールに根拠を与えようというのが、今回コンテンツ規制と言われているものになります。そうした意味では、規制を強化するというわけではないので、ネット系のコンテンツの実態はそう変わらないのではないでしょうか。
ただ、議論が変な方向に進まないようにはしたいと思っています。法案となれば国会での議論を経なければならないわけですから、そうそう変な方向には進まないと思っています。
――規制も含め、新法はコンテンツ振興のために本当に役立つのでしょうか
今回の中間取りまとめ案でコンテンツ振興に最も役立つ部分は、伝送設備、伝送サービスのレイヤーといえます。この分野での大幅な規制緩和が、コンテンツ振興に大きく役立つはずです。
例えば、現在の電波法などの規制緩和により、携帯電話事業者が放送をやることができるようになったり、逆に放送業者が通信事業をやることができるようになったりするなど、免許制度が見直されることが、最も大きいと思います。そうなれば、放送・通信にまたがるような事業を行う際、複数の免許ではなく、ひとつの免許をとるだけで行えるようになるでしょう。
さらにコンテンツのレイヤーにおいても、CS(通信衛星)によるラジオ・データ放送など、今まで「放送」とされてきたものが、規制緩和により「公然通信」の分野に含まれるようになり、より自由な事業展開ができるようになる可能性もあります。
こうした規制緩和を通じ、新しい市場やコンテンツの新しい作り手を生み出すことで、コンテンツ振興が実現できると考えています。