マイクロソフトは、2008会計年度(2007年7月-2008年6月)のオンラインサービス事業戦略を発表した。同社のもつソフトウェアの強みとオンラインサービスを融合させ、WindowsとWeb上のサービス「Windows Live」の境界をなくし、ユーザーの利便性をより高め、新たな広告事業モデルを構築していくことを目指す。サービスを統合化し、シングルサインオンで全て利用できるようにするとともに、オンラインのデータストレージサービスを投入、さらに、動画/画像共有機能を強化するなどの施策を打ち出す。笹本裕 執行役 常務 オンラインサービス事業部長は「ソフトとオンラインサービスの融合で、あらゆるデジタルライフスタイルを提供する」と話している。
「Windows Live」には、メール、メッセンジャー、ブログなどさまざまサービスが用意されているわけだが、新たな段階へと進む「第2世代Windows Live」では、いわば「ばらばらだったサービス」(同社 オンラインサービス事業部 プロダクトマネジメントグループ Windows Liveチーム 小野田哲也ディレクター)を統合化「オールインワンのひとつのサービス」と位置づけ、これまでのサービスのIDを統合化した「Windows Live ID」により、1回の登録ですべてのサービスにアクセスできる」ようになる。
コンテンツ共有の面では、画像管理機能を担う「Windows Live Photo Gallery」を秋頃に投入、ユーザーのパソコンに格納されている写真を容易にアップロードできるとともに、動画は「Windows Live Spaces」に掲載できるほか、今後、日本語版が登場する、マイクロソフト版YouTubeともいわれる「Soapbox on MSN Video」との連動もできるようになる見通しだ。
「Windows メール」、「Outlook Express」の後継となる「Windows Live Mail」は秋頃に投入、複数のアカウントを一元管理そし、「Windows Live Hotmail」にアクセスでき、他のメールサービスにも対応する。また、「Windows Live Hotmail」は現行、容量が2GBだが、8月中にはさらに倍増させる予定だ。さらに、オンラインのデータストレージサービス「Windows Live SkyDrive」を秋口に提供する。
これらのような、ソフト+オンラインサービスの統合化を広告に活かす手法の一つが「コブランディング」だ。パートナー企業、あるいは大学など、同社との提携先のブランドを冠したWindows Liveのサービスを提供し、一部、カスタマイズも可能になる。こうしてWindows Liveのユーザー数、裾野を広げることにより、広告媒体としての価値を向上化させることを視野に入れる。
同社のオンラインサービスのもうひとつの中核であるMSNは、「ポータルメディアへの変革」を主題とする。同社オンラインサービス事業部の儲俊祥 MSNエグゼクティブプロデューサーは「新しい見せ方を提案し、今後、さらにメディア色を強める」と話す。「変革」のための施策の前提として、まずユーザー層を明確化、「暮らしも仕事も楽しみたい」(儲MSNエグゼクティブプロデューサー)というような「25-45歳くらいの都会派」(同)を想定している。これまで「ポータルというのは、『とりあえず、みつける』といった傾向があったが、MSNでは『ここならみつかる』」ポータルを目指す。
新たなMSNには「厳選されたコンテンツ」が配置される。重要なのは「MSNでしかみられないコンテンツ」だ。たとえば、MSNのニュースのプラットフォームは10月から刷新され、「MSN産経ニュース」になるが、このサイトでは「初めてWebファーストになる。Webをニュース編集の中心としていく」意向だ。
マイクロソフトが最も得意とするところは「パソコンベースのソフト」(笹本 執行役 常務)であり、これを基盤に、モバイルをはじめ、さまざま機器にも利用環境を広げている。さらに、ここにオンラインサービスを加えて強化を図ってきたわけだが、従来「ソフトとオンラインサービスは並列で動いていたところがあった」(同)ことから、「ソフトの力を最大限に発揮して」(同)、「オンラインサービスとのシームレスな」(同)展開と、同社の「資産の最大化」(同)を目指すことが、今回の戦略の主眼だ。
同社は「ソフト+オンラインサービス」の統合化されたプラットフォームを実現させることにより、「広告エコシステム」を確立させたい考えだ。
同社は「Microsoft Digital Advertising Solutions (MDAS)」と呼ばれる、全社を包括する広告配信のしくみをもっている。「マイクロソフトの資産、すべてに対して、広告機会を提供する」(同)役割を受け持つ。
「広告エコシステム」でMDASがどのように駆使されるかについては、米Microsoftが買収したデジタルマーケティング/ネット広告企業のaQuantiveの技術の使い方が重要になる。この買収は「マイクロソフト史上最大の投資」(同)であるという。買収手続きは米Microsoftの2008会計年度の上半期に完了する予定とされており、その後、同社の広告戦略の指針が明らかになるとみられる。