余りにも広かった誤削除の範囲
今年5月17日(北京時間)深夜、米Symantecのウイルス対策ソフトの最新定義ファイルが、Windows XP SP2 簡体中国語バージョンの2つの重要なシステムファイルをウイルスとして削除してしまい、コンピュータを再起動しようとするとシステムがクラッシュするという事件が起きた。翌18日朝には、企業ユーザーが出勤しPCを起動するとシステムが立ち上がらないという被害が相次いだ。
Symantecは18日午前10時頃になって問題の存在を確認し、対応に乗り出し、ほぼ5-6時間で解決案を出した。Symantecは積極的に対応したが、同OSを使用する全PCが対象となっていたため、今回の誤削除の範囲は余りにも広すぎたといえる。また、Symantecは、通信、金融などセキュリティに細心の注意を払う業種でシェアが高かったため、大規模な事件となってしまったのだ。中国の業界内外から、外資企業が本土化サービスを重視しないことについて、「民族差別」との不満まで噴出する騒ぎとなった。
また、Symantecの事件が起きた翌日には、Kaspersky Labが瑞星※※のスパイウェア対策ソフトウェアのコンポーネントをウイルスと認識、完全に削除してしまい、ユーザーが瑞星※※のアップグレードや、スキャン・駆除ができなくなるという事件も起こった。
明らかになった「本土化」サービスの課題
一連の事件からは、一部の外資系ソフトウェアメーカーの、中国での事業展開において存在する問題点が明らかになっている。
ウイルスソフトウェアはその開発、テスト、管理及び市場戦略などの面において、高度に本土化(ローカライズ)されなければならない。中国のスパイウェアは、滅多に米国ユーザーのPCには侵入せず、逆に米国のスパイウェアも滅多に中国でははんらんしない。つまり、セキュリティベンダはそれぞれの地域にテスト環境をもつことで、各所特有の脅威に有効な対策を打つことが可能になるだろう。こういった点からみれば、外資系セキュリティベンダのサービスには、本土化という点で一歩遅れがあると考えざるを得ない。
外資系ソフトウェアの業務展開におけるもうひとつの課題は、製品の価格決定である。Kaspersky Labは目下、中国での市場シェアを獲得するために年間40元という価格戦略を採用している。だが、年間40元というサービス費用は、携帯事業者と携帯向けサービスプロバイダを経由して徴収するため、10%に上るとされる回収不能のモバイル通信費用問題や、40-50%に上る各段階SPのロイヤリティを除けば、同社がユーザー1人当たりから得られる収益は18-22元程度でしかない。
販売量が大幅に増加でもしない限り、このような料金徴収方式には大きなリスクが潜んでいる。いたずらな低価格は、外資系企業の中国におけるビジネスモデルの足腰を弱める。利益が出なければ再投資もできなくなり、市場への浸透力も弱くなる。さらに、 Kaspersky Labや熊猫(Panda Software)など外資系企業が中国市場への進出を続ける一方、金山軟件などに代表される国内の新興ウイルス対策ソフトウェアメーカーの出現も、市場での価格競争を一段と激化させている。
アウトソーシング通じ提携強化も
経営の本土化を効率的に進める上では、中外合弁というのも一つの選択肢だ。
ITサービスのアウトソーシングが進むなか、ソフトウェアやサービス市場の規模拡大が進行している。中国は近年、ソフトウェア輸出を急速に増やしているが、そのなかでも日本企業は中国をITアウトソーシングの最有力候補地としている。欧米企業も中国でアウトソーシング提携パートナーを探している。こうした趨勢は、今後、中国のソフトウェア企業と外資系企業との提携強化を促進するだろう。
国際化戦略を一層推進するため、中国のソフトウェアメーカーはその経営規模を拡大しなければならない。現在、中国で大規模とされるソフトウェアメーカーは従業員数で5,000人余りのレベルだが、インドでは1-2万人を超える規模だ。また、中国のソフトウェアメーカーの製品ラインナップは、比較的バリエーションに欠ける傾向にある。各企業が、ソフトウェアパッケージベンダーから、アプリケーション、ソリューション、ソフトウェアおよびサービスサプライヤーへと発展し、企業向けのトータルソリューションを提供するようになるよう、当局も期待している。自らの弱点を克服すべく、外資系企業との積極的な提携を図ることは、中国企業がアウトソーシング市場を獲得するための有効な手段になるだろう。
一方、外資系企業にとっても、中国のソフトウェアメーカーとの提携は、中国市場開拓にとって有利だ。Microsoftは創智科技との提携を通じ、企業向けソリューションを同市場で展開するのに成功した。中国国内企業との提携により本土化を図り、販売面でのメリットを享受しえた一例といえる。
※ は「上」のしたに「下」を組み合わせた漢字