マイクロソフトは31日、Windows Vistaの企業向け導入を支援強化する施策を発表した。「需要喚起」「互換性確保」「導入展開」の3つを柱に、企業がWindows Vistaを採用しやすい環境づくりを推進する。2008会計年度(2007年7月~2008年6月)に、対前年度比33%増となる63万本のライセンス販売を目標とする。

需要喚起策の軸となるのは、同社が7月31日から開始した「Windows Vista Enterprise Ready キャンペーン」である。まず、ソニー、東芝、NEC、日本ヒューレット・パッカード、富士通、松下電器、三菱電機、レノボ・ジャパンの8社が、「Windows Vista Enterprise」の動作を確認した「Windows Vista Enterprise Ready PC」を市場に投入する。このWindows Vista Enterpriseは、マイクロソフトボリュームライセンスプログラムにより提供されるもので、Windows Vistaの企業向けの機能のすべてを搭載した上位版である。ボリュームライセンスは、5ライセンス以上のライセンス購入に対応しており、PCが250台以下の「Open License」、250台以上の「Select」プログラム、全社契約の「Enterprise Agreement」などがある。

需要喚起策として、8社から「Windows Vista Enterprise Ready PC」が提供される

Windows Vista Enterpriseの動作確認を行った「Windows Vista Enterprise Ready PC」を提供する8社

Windows Vista Enterprise Ready PCには、「Windows Vista Enterprise Ready PC」と書かれたロゴを表示し、Windows Vista Enterpriseの動作確認済みであることを示す。マイクロソフトの執行役 常務 ビジネス&マーケティング担当の佐分利ユージン氏は「今回、8社のメーカーの40機種以上で動作確認されている。ビジネス分野での需要はさまざまなので、今後、さらに機種を増やしていきたい」と話す。また、同キャンペーンでは、Windows Vistaが提供できるソリューションを紹介するキャンペーン専用サイトを公開し、企業へのWindows Vistaの導入・展開を支援する。

マイクロソフトの執行役 常務 ビジネス&マーケティング担当の佐分利ユージン氏

互換性確保の点では、動作環境を補強するソフトウェアおよびツールを備える「Microsoft Desktop Optimization Pack(MDOP)」を用意している。MDOPは、5つのコンポーネントで構成される。このMDOPのコンポーネントの1つである仮想化技術「SoftGrid Application Virtualization」を利用し、アプリケーションを仮想化環境の上で稼動させることにより、異なるバージョンのOSが混在する環境や、既存のOSへの依存などを原因とする互換性の問題や管理の複雑性を解消するという。また、アプリケーションの運用サイクル、利用状況を管理も可能だ。同社Windows本部 プロダクトマネジメント部長の中川哲氏は「仮想化は互換性確保の鍵となる。アプリケーション管理もしやすくなり、ライセンス管理もでき、法令順守の点でも有効」と語る。

マイクロソフトのWindows本部 プロダクトマネジメント部長の中川哲氏

そのほか、MDOPのコンポーネント「Asset Inventory Service」は、ソフトの資産管理を担うもので、レジストリ監視、ソフトウェアのインストール状況などを検知する。「Advanced Group Policy Management」は、Active Directoryを通じて、設定や機能の制限などを制御する「Group Policy」の管理手法を拡張、実環境での試用などを行う。「Diagnostics and Recovery Toolset」は、OS環境を包括的に復元するほか、障害の原因の分析などを行う。「System Center Desktop Error Monitoring」は、アプリケーション、OSの障害状況を監視する。

導入展開の面では、「Windows Vistaの導入ガイド」ポータルを公開し、技術情報を計画からメンテナンスまでの5つのフェーズに分類して解説する。さらに、具体的な手法などを紹介するイベントやセミナーを10月末を目処に開催していくほか、導入促進のためのサポート体制強化を図る。

同社によれば「Windows Vistaは全世界で、すでに6,000万本を販売しており、そのうち4,000万本は、発売から100日で販売された。2008年の6月までにはWindows Vistaユーザー数10億に達する。これは世界中の自動車の数より多い」(佐分利氏)という。国内では、企業向けのWindows Vista導入済み、導入予定を合わせたパソコンの台数は2008年6月までに20万台となる見通しで「これは、Windows XPと比べ、10倍のペースだ」(同氏)としている。また佐分利氏は「日本のビジネス領域でも好調」とし、「国内のビジネスでのニーズに、Windows Vista Enterpriseは噛み合っているのでは」と述べた。

JEITA(電子情報技術産業協会)によれば、2006年度第4四半期(2007年1~3月期)の国内パソコン出荷実績は、対前年同期比7%減の352万3,000台となった。さらに、同第3四半期(2006年10~12月期)は259万1,000台で、この2年間でみると四半期としては最も低い数字となった。これらの理由は、2007年1月末に発売されたWindows Vistaを見込んだ買い控えの影響とみられていた。発売後の当初もWindows Vista効果はまだ現れていなかったわけだが、この6月にはJEITAは「主にコンシューマ市場で、新OS搭載モデルの需要が立ち上がってきたと思われる」と評している。

企業向けのWindows Vistaの浸透について、4月時点では「ビジネス市場は、コンシューマー向けに比べ、新OSの導入時期は遅れる。これまでと同様の傾向」(JEITA)との見方だった。企業は既存のシステムとの互換性確保を重視、導入に慎重になることが大きく関わっている。今回、同社が企業向け普及の促進策として、互換性の問題に最も重点を置いているのは、こうした背景がある。