ノベルは22日、SUSE Linux Enterprise 10(SLE10)の最初のサービスパックとなる「SUSE Linux Enterprise 10 Service Pack 1」(以下、SP1)の提供開始を発表した。米国では18日に出荷開始されたもの。日本国内では7月6日から受注開始となる。

SP1は、SLE10リリース後、これまでにリリースされたセキュリティおよび修正パッチの集積であり、最初のメンテナンス・リリースとなる。加えて、仮想化、ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)、セキュリティ、相互接続性、システム管理などに大幅な機能拡張が行われている。

主な機能強化点

SUSE Linux Enterprise Server 10 SP1(SLES 10 SP1)では、「XenでサポートされるゲストOSの拡大」「高可用ストレージ基盤を実現するコンポーネント(OCFS2、EVMS2、Heartbeat2)のアップデート」「新プロセッサのサポート(クアッドコアのIntel Xeon/AMD Opteron、IBM POWER6)」「セキュリティ機能の拡張」「Novell Open Enterprise Server 2のサポート」「Auditサブシステムの機能強化」などが主な拡張点となる。

SUSE Linux Enterprise Desktop 10 SP1(SLED 10 SP1)では、「デスクトップインタフェースの更新(メニューやダイアログのデザイン変更など)」「セキュリティの強化(ホームディレクトリの暗号化機能など)」「OpenOffice.orgの機能強化(OpenOffice.org 2.1)」などが行われた。また、サポート対象外とはなるが、Desktopにも仮想化機能としてXenが提供されることになった。

仮想化対応の強化 -"Xen"の導入

SP1の拡張点の中でも、仮想化機能の強化は大きなポイントとなる。SLE10でサポートしている仮想化機能は、オープンソースで開発された"Xen"だ。XenはHypervisor型の実装となっており、ハードウェア上で直接Xen Hypervisorが動作し、ゲストOSの実行をサポートする。この場合、ゲストOSの実行形態には「フルバーチャル(完全仮想化)」と「パラバーチャル(準仮想化)」の2つの形態がある。フルバーチャルでは、ゲストOSがそのままの形で実行されるが、パラバーチャルでは、ゲストOSにXen Hypervisorに対応するよう変更を加えた上で実行する。変更が必要な理由は、通常のOSは仮想化されることを想定しておらず、プロセッサのリングプロテクション機構の最上位レベルの特権命令を使用している点にある。Xenによる仮想化では、Xen Hypervisorが特権命令を実行し、仮想化されたゲストOSはより低いレベルで実行される必要がある。これが、従来Xenで主にパラバーチャルが利用されてきた理由となっている。ただし、現在はIntel、AMDともにハードウェアレベルでの仮想化サポートを提供しており、これを利用することでゲストOSのコードを書き換えなくても、フルバーチャルでの実行が可能になってきている。

SLES 10 SP1では、パラバーチャルでのサポートOSとして「SLES 10 SP1」「OES2-NetWare 6.5 SP7」「OES2-Linux」の3種と、将来の対応予定として「Windows Server 2008」を挙げている。一方、フルバーチャルでのサポートOSは、「SLES 10 SP1」「SLES 9 SP3」「OES-NetWare 6.5 SP7」「OES2-Linux」「Windows Server 2003 R2」と、ベストエフォートでのサポートとして「Windows 2000」「Windows XP」「RHEL4」「RHEL5」が挙げられている。「ベストエフォートでのサポート」とは、ノベルとしてXen Hypervisorに起因するトラブルはサポートするが、OS自体の問題についてはサポート対象外とする、という対応を意味する。

フルバーチャルでのゲストOS実行は、ゲストOS自体には手を加える必要がないのだが、パラバーチャルでXen Hypervisorに最適化した形で実行される場合と比較すると、パフォーマンスで劣るという問題がある。とくにI/Oエミュレーションでの速度劣化が顕著だという。そこで今回ノベルでは、Microsoftとの技術提携の成果として、パラバーチャル向けのデバイスドライバ(パラバーチャルドライバ)をフルバーチャルOSに対して提供する、という取り組みも同時に行った。

「SUSE Linux Enterprise Virtual Machine Driver Pack」として発表されたもので、ネットワークドライバ、バスドライバ、ブロックデバイスドライバをパッケージ化したもの。OS自体には手を加えず、デバイスドライバだけを入れ替えることで、フルバーチャルで実行されるOSのパフォーマンスをネイティブ実行でのパフォーマンスに近いレベルにまで引き上げることができるという。

まず提供されるSUSE Linux Enterprise Virtual Machine Driver Packでは、Windows XP、Windows 2000、Windows 2003に対応したドライバが提供され、出荷予定は7月。さらに、Red Hat Enterprise Linux 4(RHEL4)およびRHEL 5に対応したドライバは今夏後半にリリースされる予定。

6月第2週に公開されたプレス向けデモンストレーションでは、ネットワークのスループットを測定するベンチマークが行われ、フルバーチャルで43.87Mbpsだったスループットが、パラバーチャルドライバに入れ替えるだけで1017.54Mbpsになり、パフォーマンスが2倍以上に向上するという例が公開された。

Netperfによるネットワークスループットのベンチマーク結果。パラバーチャルドライバに入れ替えたことで、ネイティブ実行並みのパフォーマンスを得られることができるという

なお、Virtual Machine Driver Packの1年サブスクリプション契約は、最大4仮想マシンの場合、物理サーバ1台あたり299ドル。仮想マシン数に無制限の場合は、物理サーバ1台あたり699ドル。SUSE Linux Enterprise Server用のパラバーチャルドライバはSP1に含まれる。