米NVIDIAは6月20日(現地時間)、「Tesla」という新ブランドでHPC(High-Performance Computing)向けのGPUコンピューティング製品を提供することを発表した。地学、分子生物学、地球物理データなど、高度なシミュレーションを必要とする分野にGPUの浮動小数性能やパラレルデータ処理能力を活用する。
同社は発表の中で「NVIDIA Teslaブランドの下、GPUコンピューティング製品を通じて、従来までスーパーコンピュータからしか得られなかった処理能力を全ての科学者やエンジニアに提供する。今日のワークステーションを"パーソナル・スーパーコンピュータ"に変える」と説明している。またNVIDIAの社長兼CEOのJen-Hsun Huang氏によると、「演算処理にかかる時間がケースによっては数週間が数時間に短縮される。NVIDIA Teslaの劇的な効果は、HPC産業にとってCray 1で実現したベクター処理以来のインパクトになる」という。
3種類の製品を用意
Tesla GPUは128のパラレルプロセッサを搭載し、最大518GFLOPSのパラレル演算性能を実現する。浮動小数点演算はIEEE 754に従う。TeslaファミリーのGPUソリューションには以下のようなフォームファクタの異なる3製品が用意されている。
NVIDIA Tesla GPU Computing Processor:PCやワークステーションに搭載するコンピューティングボードで、複数の構成が可能。初のGPU Computing Processor製品となる「Tesla C870」はTesla GPU×1、1.5GBのGDDR3を搭載。メモリインタフェースは384bit、メモリ帯域は76.8GB/sec。消費電力は最大170W。システムインタフェースはPCI Express x16となっている。
NVIDIA Tesla Deskside Supercomputer:デスクサイド型のスケーラブルなコンピューティングシステム。PCI Expressで接続することで「PCまたはワークステーションをパーソナル・スーパーコンピュータに変える」。最大8TFLOPSのソリューションを実現するという。製品として発表された「Tesla D870」はTesla GPUを2個搭載し、それぞれ1.5GB GDDR3を備える。電源容量は最大520W。
NVIDIA Tesla GPU Computing Server:最大8個のTesla GPUを搭載できる1Uサーバ。「GPUコンピューティングをデータセンターにもたらす初のサーバシステム」としている。製品の「Tesla S870」は4個のTesla GPUを内蔵し、それぞれ1.5GBずつ合計6GBのGDDR3を搭載。PCI Expressのホストアダプターカードを装備する。電源は標準で550W、最大800W。
Teslaは業界標準のソリューションであり、CPUと連携させた柔軟なソリューションが可能。既存のHPC環境にもGPUのアップグレード、Deskside SupercomputerやGPU Computing Serverの追加でスムーズに対応できるという。
Tesla向けのプログラミングには、NVIDIAが提供するGPU向けの統合開発環境「CUDA (Compute Unified Device Architecture)」を利用する。CUDAには、GPU向けのCコンパイラ、デバッガ/ プロファイラ、専用ドライバ、標準ライブラリなどが含まれる。C言語をベースに大規模なパラレル処理のプログラムを記述することで、GPUを用いたソリューション作りが簡易化される。対応システムはWindows XP (32bit)またはLinux (32bit/ 64bit)。
油田開発で約100倍の効率化
地球物理データ分析を専門とするHeadwaveのケースでは、GPUコンピューティングの導入によって堆積層の分析プロセスの大幅な短縮を実現したという。今日、新しいオイルやガスのリザーバは非常に深くに存在し、発見には堆積層の詳細な分析が必要とされる。精細なイメージ作り、正確な分析のために、複雑なフィルターが用いられるようになり、そのため数テラバイトのデータセットを解析するようになった。この処理に従来まで数カ月を要していたが、GPUのソリューションを導入してからは、短時間ですぐに結果を確認できるようになった。約100倍の効率化だという。
このほかにもNVIDIAによると、Accelewareの携帯電話のアンテナ・シミュレーションで約45倍、Evolved Machinesのニューロン・シミュレーションで約100倍、Biomedical Imaging CenterのMRI処理で245~415倍、クレムゾン大学の対流雲研究のシミュレーションで約50倍のアプリケーションの向上が見られたそうだ。