ユーザー自身が作成する動画・画像などのコンテンツ「UCC (User Created Contents)」が流行中の韓国。最近ではこの分野から有名になる人が登場したり、企業による採用の際、自己アピールの道具として使われるなど、あらゆるものがUCC化している。
そんな中、UCCの投稿や閲覧ができるサイトとしては最大手の「Pandora.TV」が、中央選挙管理委員会からインターネットメディアであるとの指定を受け、反発の意を示している。
インターネットの選挙運動を規制
2007年12月、韓国では大統領選挙が実施される予定だ。韓国では選挙の際、インターネットが大変重要な役割を果たす。その代表的な例が現ノ・ムヒョン政権だ。支持者たちがインターネットをフル活用して支持層を拡大したことで、ノ氏を大統領にまで押し上げた話は有名だ。
こうしたこともあってか、Pandora.TVでも大統領選挙の立候補予定者たちが同サイト内にチャンネルを開設して動画を公開する「2007 大統領選挙 動画UCC大全」サービスを開設するなど、選挙サービスに注力していた。
しかし、ここで選管委による選挙UCC運用基準が、Pandora.TVの前に立ちはだかった。同社はこの基準により、選挙UCC(選挙に関連した写真やコメント、動画など)に関しての規制を受けることとなったのだ。
これによると選挙運動期間である選挙日前の23日以外は、誰であってもインターネット上に選挙UCCを掲示・配布できない。選挙権のない19歳未満は、選挙運動をすることができない。また、候補者とその家族に対する虚偽事実を転載することも禁止される。
メディアが特定の候補者に有利または不利な動画や文章を複製したり、リンクできるようにする行為も、それを行った時期によっては不法となる。
その行為が選挙に影響を与えようとする意図や目的があると判断されれば、選挙運動とみなされる。たとえば、似たような選挙関連の文章が反復掲示されたりしていれば選挙運動とみなされ、規制の対象となるということだ。
つまりユーザーは選挙に関連したあらゆる行動を、詳細に渡って規制されることとなるのだ。
規制に反発するPandora.TV
Pandora.TVではこうした規制により、自社のユーザーが干渉対象になって行動範囲が狭まり、Pandora.TV離れしていくことを危惧している。
同社では、規制が厳しくなるほど、ネティズンはYouTubeなどの韓国国外サイトに選挙関連映像をアップロードするといった事態が起こるかもしれない、と述べている。
実際、同社による「2007 大統領選挙動画UCC大全」のトラフィックは低迷状態にあるようで、これには「選管委による制約事項があまりにも多く、(サービス自体が)十分露出できずにいる点にある」(Pandora.TV)と分析している。
さらにメディアと認定されれば、インターネット実名制も適用されるため、個人の自由な表現の場を自認しているPandora.TVとしては、ユーザーを規制でがんじがらめにしたくないという意図もある。
選管委の判断に対してPandora.TVでは、同社の選挙チャンネル開設を通じた大統領選挙UCCサービス運営上の問題点、および立候補予定者歓談会を通じて集めた内容を整理。公職選挙法改定関連意見書として、選管委に提出をしている。
しかし、これに対して選管委から届いた公文書によって、Pandora.TVは選管委からインターネットメディアとして確かに分類された事実を確認することとなった。
Pandora.TVではこれに対し「本社にはニュースを生産する記者は1人もおらず、編集したり記事を他の媒体に送稿するなど、基本的な言論活動はないという点に(選管委の判断の)問題がある」と述べている。
また「新聞法や放送法による言論の規定には明確な基準があるものの、選挙法によるインターネット言論分類基準を、選管委が一方的に指定できるといった点もおかしい」と問題点を続けて挙げた。
まだまだ話し合いが必要
ところで、韓国でインターネット実名制が導入された背景には、不法選挙運動がある。対立候補をおとしめるような活動をなくそうと、こうした規定が設けられたというわけだ。
不法選挙運動は伝播速度の早いインターネットにおいては脅威の存在ともなりえる。今回の選管委の措置も、そうした不法選挙運動によって当落が決まってはいけないという思いから生まれたものだといえるだろう。
しかし一方で、Pandora.TVの意見ももっともだ。インターネットにおける利用者の権利を、法でがんじがらめにすることは決して良い方法とはいえず、インターネットを活用した選挙運動を効率的に行いたいと考えている候補者にとっては、こうした基準が障害ともなりかねない。
12月の選挙日が迫っているとはいえ、その前段階の選挙運動の法規制で韓国はゆれている。どちらの意見にも長所と短所があるだけに、双方がさらに歩み寄っての話し合いが必要だろう。