業務アプリケーション市場で激しく競い合う独SAPと米Oracleの戦いが、法廷でも繰り広げられようとしている。今月、Oracleは今年3月にSAPを相手取って起こした訴訟に新たに申し立てを追加、対立の姿勢をさらに強めた。

法廷にも拡大、顧客争奪戦

Oracleによる訴訟は、SAPが提供するOracle製品のサポートに関するものだ。正面きっての対立関係にある2社はそれぞれ、相手の顧客に対して乗り換えを促すサービスやキャンペーンを展開している。SAPは、Oracleが買収したPeopleSoft製品のサポートを専門とするTomorrowNowを2005年に買収、Oracleの買収に不満なPeopleSoftユーザーの取り込みを図っている。Oracleも「Oracle Fusion Middleware for SAP」などを提供している。

Oracleが最初にSAPを訴えたのは今年3月のことだ。カリフォルニア州北部地区連邦地裁に書類を提出したOracleは、自社のソフトウェアコードを不正に入手したとして、SAP、SAP America、TomorrowNow、SAP従業員50人を訴えた。この訴えでOracleは、SAPが自社顧客サービスに組織的不正アクセスを実行し、ソフトウェアコードを入手したと主張していた。そして6月2日、OracleはライバルのSAPを相手取って起こしている訴訟に、新たに著作権侵害と契約違反の申し立てを追加した。

Oracleの追加申し立てに対し、SAPは声明文を発表、「断固として戦う」と述べた。また、「Oracleは著作権登録を済ませたので、著作権侵害の訴えを起こした」とOracleの動きを非難してもいる。米Bloombergの報道によると、SAPのCEO、Henning Kagermann氏は6月7日、米シリコンバレーでのコラボレーションラボ開設イベントにてOracleの動きについてコメントし、「TomorrowNowは顧客に選択の自由を提供している」と述べたという。そして、Oracleは単にSAPの動きをけん制しようとしているとの見解のもとに、「他社が我々と同じことをしてそれが成功していれば、我々はそれでかまわない。顧客には選択の自由があるのだから」と続けている。

SAPはOracleの追加申し立てに対し、7月2日までに回答する予定だ。

買収、提携 - それぞれの戦略

企業の事業活動がERPやCRMなどの業務アプリケーションに依存する比重は増しており、これらアプリケーションの重要性は高まりつつある。70年代創業のSAPはいち早くERPの「SAP R/3」を提供、以来この市場を独占してきた。これに対し、データベース市場を制したOracleは、「E-Business Suite」で1990年代よりこの分野に進出を図っている。

当初、不釣合いな競争にみえたSAPとOracleの戦いだったが、ここにきて様相が変わってきた。Oracleは2000年に入り、積極的な買収戦略に切り替え、市場征服に向け本腰を入れる。103億ドルをはたき、1年半かかって手に入れたPeopleSoftをはじめ、JD Edwards、Siebel SystemsなどがOracleの手中に入った。Oracleは買収のたびに技術と顧客を獲得し、最初は強力なライバルとみなしていなかったSAPも、守りから攻撃の姿勢に転換しはじめる。

迎え撃つSAPの戦略は社内開発、提携、そして適切な買収だ。社内開発ではミドルウェアの「NetWeaver」などがあり、提携では米Microsoftが代表例となる。2005年に提携したMicrosoftとは連携ツール「Duet」を共同で開発、先日明らかにしたロードマップではさらに協業体制を強めていく方針を示した。

だが、今年に入り、NetWeaverなど社内開発を率いてきた最高ソフトウェアアーキテクトのShai Agassi氏が辞任するなど、不安要素も見えている。Agassi氏がベースとしていた米国は、Oracleの本拠地であり、SAPにとってテコ入れが必要な市場。米国市場強化という課題に対し、SAPはCIO職の新設、シリコンバレーにおけるコラボレーションセンター立ち上げなどの手を打っている。

次の戦場は"SMB"

大企業では一巡したといわれる業務アプリケーションの市場は、SMBという新しい戦場に移りつつある。同時にソフトウェア業界には新しい潮流が起こりつつある。インターネット経由でアプリケーションを配信するSaaS(Software-as-a-Service)だ。オンデマンドともいわれるこの分野では、元OracleのMark Benioff氏が創業した米Salesforce.comが市場を切り開いている。Salesforceは今月、米Googleと提携を発表、着実に土台を広げている。市場にはこのほかにも、Microsoftなど、元々SMBに強いプレイヤーも存在する。

現在、SAP、OracleともにSMB向けの製品、オンデマンドサービスの両方を急ピッチで強化している。まだどちらが優勢とはいえない段階だが、2010年には150億ドルとも300億ドルともいわれる市場だ。この市場次第で業務アプリケーション市場そのものの勢力図が大きく変わる可能性もある。OracleとSAPの激しい戦いは今後も続きそうだ。