30日、IDGジャパン主催の技術カンファレンス「LinuxWorld Expo/Tokyo 2007」が幕を開けた。3日間で合計40以上のセッションが催される同カンファレンスでは、LinuxおよびOSS(Open Source Software)のキーマンが多数招かれ、コミュニティの活動報告や最新の技術トレンドに関する発表が行われている。本稿では初日の主なトピックスをお伝えしよう。
特許の共有でイノベーションを加速
Open Invention Network(OIN)のCEOを務めるJerry Rosenthal氏のセッション「A Real Solution to Linux Patent Problems」は、現在話題に挙がっている「OSSによる特許侵害問題」を意識した発表になった。
OINは、IBM、Novell、Philips、Red Hat、Sonyの5社(後にNECも加わり6社)の出資により2005年11月に設立された企業だ。OINでは、OSS関係者にLinux関連の特許を共有するよう呼びかけており、賛同企業/団体(および個人)には特許使用料の回収を遠慮してもらう代わりに、賛同済み企業/団体の特許を自由に使える権利が与えられる。
こうした企業が設立された背景には、「OSSという文化が浸透したことにより、共有型のイノベーションが可能になった」(Rosenthal氏)ことが挙げられる。従来の企業は、特許を取得し、独占的に技術を使用することで利益を上げてきたが、OSSの世界では、企業の壁を超えて技術を共有するという方法により、従来以上の速さでイノベーションを遂げている。しかし、「その一方で、OSSでは、著作権にばかりに注目が集まり、特許という問題がなおざりになっていため、訴訟が起きたときに身を守る術がない」(Rosenthal氏)という。この問題に対する解決策を探っているのがOINというわけだ。
折りしも、今月中旬には、Fortun誌上で米Microsoftの顧問弁護士が「LinuxなどのOSSが同社の特許235件を侵害している」と指摘。現在、OSS関係者からさまざまなコメントが出されている最中だ。「こうしたケースでLinux開発者たちを守れる環境を作らなければならない」--Rosenthal氏はセッションの終盤、このように述べ、聴講者に協力を呼びかけた。
なお、同社の取り組みは、同社Webサイトで確認することができる。特許使用に関する文書なども掲載されているので、興味のある方は参照してほしい。
Linuxマーケットを拡大するための戦略
The Linux Foundation、Exective DirectorのJim Zemlin氏 |
LinuxWorld Expo/Tokyo 2007では、Linuxマーケットの拡大に向けた取り組みも発表された。
このテーマのセッションを務めたのは、The Linux Foundation、Exective Directorの肩書きを持つJim Zemlin氏。The Linux Foundationは、今年1月に「Open Source Development Labs」と「Free Standards Group」が合併するかたちで設立された団体で、Linuxの普及促進や標準化などを推進すべく、さまざまな活動を続けている。Zemlin氏はその団体のトップに立つ人物だ。
そのような立場にあるZemlin氏が、さらなるLinuxの普及を推し進めるうえで参考にしているのが、米Microsoftのマーケティング戦略だという。同氏は特に、ユビキタスブランドの確立、標準化に向けた取り組みなどに注目。前者については、「サーバだけでなく、モバイル、デスクトップでも十分使用に耐えうることをアピールし、開発を容易に行えるというイメージを植えつけたい」という意向を明らかにした。
また、後者については、UNIXのように激しく枝分かれしてしまい、まったく異なるソフトウェアが乱立することを危惧。「標準の確立に努め、ユーザーが困惑しない範囲で各ディストリビュータが競える環境を整備したい。競争が健全に行われていれば、各プロダクトの価格が上昇しすぎるようなことも起こらないはずだ」とした。これを具現化するための活動として、The Linux Foundationでは、標準の作成に加えて、標準に準拠していることを確認するためのテストアプリケーションを提供しているほか、標準準拠を認証する制度も設けているという。
The Linux Foundationでは、Linuxを安心して利用してもらうための取り組みも進めている。Zemlin氏は講演中、Linuxには特定企業の特許を侵害するようなものは含まれていないことを強調したうえで、「それを利用者に理解してもらうための活動を続けていく」ことを説明した。
Windowsに対するLinuxの強みについて、Zemlin氏は「進化の速さ」を挙げる。「WindowsではVistaのリリースまでに5年以上かかった。それに対し、Linuxはこれまで1~2年の周期で新版をリリースしている。もちろん、品質やセキュリティの面でもまったく劣らない」(Zemlin氏)。
同氏は、戦略がうまく機能し、Linuxの強みが正しく理解されるようになれば、「将来的にWindowsとLinuxで50%ずつのシェアを分け合うことになるだろう」との見解を示し、講演を締めくくった。