韓国のNCsoftが開発している『リネージュ3』の機密情報が流出していることが発覚してから約2週間、警察の調査の結果、この情報が日本に流出していることが明らかとなった。
ソウル地方警察庁によると、今回、容疑者として挙げられているのは計11人。「すべてが元NCsoft社員」(ソウル地方警察庁)だという。うち2人は拘束延長を申請、8人は不拘束立件、1人は逮捕令状を申請予定であるという。
この中の4人はNCsoftで開発中の『リネージュ3』など2タイトルに関する機密情報を、日本のニュースサイト「4gamer.net」に流出させていたとして、警察から「営業秘密日本流出」という容疑をかけられている。
容疑者が情報を流出させたのは、400億ウォン(約51億円)の投資を誘致するためだ。リネージュ3に関する情報提供が投資を受けるための交渉条件となっていたとされており、これを電子メールで計4回にわたって送っていたという。これによる財産被害は「約1兆ウォン(約1,300億円)に上る」とソウル地方警察庁では推測している。
警察発表による事件概要
ソウル地方警察庁では、事件の概要を下記のように説明している。
NCsoftの開発室長として勤務していたAは、NCsoftの営業秘密である『Project M』『リネージュ3』の営業秘密企画文書を、NCsoft社員だったBやCから入手。これを「日本のソフトバンクに勤務していた」(ソウル地方警察庁)という韓国人のDが日本語に翻訳し、電子メールで4gamer.netに送信していたという。
彼らは「NCsoftを退社後、日本に会社を設立しようと目論んでいた」(ソウル地方警察庁)という。そこで2006年9月頃、4gamer.netとの間で2回に渡り400億ウォンの投資誘致の交渉を行った後、NCsoftで開発中の『リネージュ3』と『Project M』の企画文書を計4回にわたり送信。約5,000億ウォン(650億円)と推測される損害を発生させたとされる。
4gamer.netの調査について、ソウル地方警察庁は「韓国の法に従えばやるべきではあるが、国際問題が絡む難しい一件なので慎重に進めているところだ」と述べるに留めた。
なお、4gamer.netおよび同サイトを運営する株式会社Aetasから、本件についてのコメントは現時点で得ることができなかった。
追記
5月21日現在、AetasのWebサイト上で「本件に関しましては,韓国の当局が調査中とのことで現時点でのコメントは差し控えるべきと考えますが,少なくとも,弊社ないしは4Gamer編集部の者が機密情報の流出を働きかけたことはありませんし,弊社ないしは4Gamer編集部と元NCsoftの開発室長との間で投資誘致に関する交渉が行われたことはありません。」とのコメントが発表されております。
別の形でもゲーム情報流出
さらに上記とはまた別のかたちでリネージュ関連の情報が流出している。
Eは2006年8月頃、『リネージュ2』の営業秘密である、計5,747個のソースコードをハードディスクに保存して取得。その後、別会社で新規ゲームを開発する際に、サーバーエンジンの製作過程でこれを利用した。
Fは営業秘密であるリネージュ関連のクライアントプログラムを外部メモリに保存。別の企業に就職するために、デモンストレーションとして実行しようとしたもののエラーが発生し、営業秘密情報の公開は未遂に終わっている。
またG・H・I・J・Kは、NCsoftを退社する際、『リネージュ3』の営業秘密を外部メモリに保存することで取得していた。
NCsoftによるコメント
NCsoftは、自社の立場を電話と文書で説明してくれた。
それによると、そもそも機密情報の流出が発覚した発端は、NCsoft側のセキュリティシステムに異常が見つかったことからだという。通常、ゲーム開発中には情報漏れを防ぐためのセキュリティシステムが作動するのだが、2月中旬頃に認可を受けていない場所で利用された痕跡が見つかり、NCsoftが警察に通報したという。警察による調査の結果、上記のような事件が発覚したというわけだ。
ちなみに韓国の一部報道では、容疑者たちがNCsoftに所属していた際に企業内で葛藤があり、数十人が同時に退社したことなどが伝えられている。こうした事情について、同社では「確認がきちんと取られていない部分であり、事実ではない記事」と述べている。
しかし同社は、「開発プロセスにおけるシステム調整部分で、(容疑者たちと)コミュニケーションの問題はあった。それが責任ある部分なので退社したもの」とも語っているのだが、「こうした一連の出来事と、今回の事件は別であると考える」とコメントしている。また、容疑者はNCsoft在籍中から4gamer.netと関係があったのかとの問いには「申し上げにくい部分」とコメントを避けている。
NCsoftは今後も『リネージュ3』の開発を継続する意思を明らかにしている。ただし、今回の事件により「調整期間が必要。今はシステムなどを再点検中」(NCsoft)とのことで、5月13日時点では開発が一時的に進められていないようだ。
NCsoftは「世界のオンラインゲーム市場において、日本は韓国のもっとも大きな競争相手の1つだと考えている。今回の一件では、韓国のゲーム産業全体にまで被害を与える結果にもなりかねなかったが、警察の迅速な対応で(事件が大きくなる前に容疑者を)検挙できたことは幸いだったと考えている。NCsoftでは今回の事件を教訓に、今後も核心技術や人材確保にいっそう力を入れていきたい」と述べている。