2年目を迎えたMIX
4月30日から5月2日にかけて米ラスベガスでMicrosoftのWebデザイナー / Web開発者向けカンファレンス「MIX07」が開催された。
MIXは今年が2回目だ。昨年のMIX06はMicrosoft初のWebデザイナー / Web開発者向けカンファレンスとして注目されたが、内容的には物足りなかった。リリース直前のInternet Explorer 7とWindows Vistaのデスクトップアプリケーションが主役で、Webデザイナー / Web開発者に強くアピールするようなMicrosoftのWeb戦略の全体像が見えてこなかったためだ。結果、つかみどころのないカンファレンスという印象を受けた。
それから1年。MicrosoftはInternet Explorer 7とWindows Vista、ASP.NET Ajaxなどをリリースし、MIX07直前にNAB(National Association of Broadcasters conference)でFlash対抗と呼ばれる「Microsoft Silverlight (旧名: Windows Presentation Foundation Everywhere)( 以下、Silverlight)」を発表した。4月19日には、開発ツールVisual Studioの次期バージョン"Orcas"(開発コード名)のベータ1を公開。MIX07では統合デザインツールの「Expression Studio」をリリースした。
すさまじい勢いで、ばらばらだったパズルのピースがつながり、新たなピースも現れている。そこから見えてくる全体像は、よりリッチなWeb世界を切り開こうとするMicrosoftのエコシステムだ。オープニング基調講演で同社チーフソフトウェアアーキテクトのRay Ozzie氏は、ソフトウェアとサービスを融合させる「ソフトウェア+サービス」というビジョンを改めて説明すると共に、インターネットにつながる全てのデバイスとユーザーをくまなくカバーするプラットフォームについて語った。
Microsoftが考えるWeb2.0とは……
Ozzie氏はまずWebの歴史を振り返り、Webに対するユーザーの期待の高さを認めた。それがシンプルなコンセプトから生まれたWebを急速に進化させているという。ここ数年の間に開発者は複雑なJavaScriptを駆使して、特定のWebブラウザや特定のプラットフォームの制限を取り払い、AJAXによってWebにメディアリッチな双方向性をもたらした。同時に「Web対PC」「サービス対ソフトウェア」「コンシューマ対IT」といった議論がわき起こった。この点についてOzzie氏は、比較議論が的はずれであると指摘。SaaS(Software as a Service)ベンダーの中でも、最近はオフライン版のソフトウェアを用意してサービスを拡張するケースが増えていることを挙げ、今は融合の過程にあることを強調した。
では、なぜ今「ソフトウェア+サービス」なのか。80年代にPC需要を高めたのはドキュメント作成だった。今日、PCやモバイル機器の需要を引き上げているのはメディアの民主化である。ユーザーは写真やビデオ、Web上の情報などをネットで交換・共有するのに熱心だ。その周辺ではオンライン広告も急成長している。これらをターゲットにするために、開発者はネットユーザ全体へ同様のユーザー体験を提供する必要がある。その一方で、ネットサービス上でやり取りされるメディアはデスクトップから生まれており、写真やオーディオ、ビデオ向けにサービスと連携するデスクトップツールへの需要がふたたび高まっている。Ozzie氏は、HTML、AJAX、Flashなどによって実現している前者を「ユニバーサルWebアプリケーション」とし、デスクトップソフトが絡む後者を「ユーザー体験優先型アプリケーション」と呼んだ。
MicrosoftがWebデザイナー / Web開発者向けカンファレンスをMIX(ミックス)というタイトルにしたのは、ユーザーとビジネスの双方がWeb / デスクトップ / デバイスが融合したソリューションを求めているからだという。ソフトウェアプラスサービスにおいて同社は、サービスをハブにソフトウェアやデバイスが広がり、相互に働く環境を目指す。具体的には、開発者がユニバーサルWebアプリとユーザー体験優先型のどちらかを選択するのではなく、2つを同じソリューションで実現できるプラットフォームを用意する。Ozzie氏は会場の参加者に対して、「私たちは、あなた方が様々なテクノロジを選択できる立場にあることを理解している。それを踏まえて、どのような選択が成功への近道になるかを判断してほしい」と訴えた。
Silverlight1.0プラグインのベータ提供開始
デスクトップ向けソフトウェア開発で最大手のMicrosoftにとって、ソフトウェアプラスサービスを実現する上で重要なピースとなるのがSilverlightだ。「純粋にユニバーサルWebをターゲットにしたテクノロジで、ユビキタスな導入、クロスプラットフォームでクロスWebブラウザなランタイムを実現するほか、高品質、手軽なコーディング、スタンダードベースのソリューションを低コストで可能にする。Webにおけるメディアとビデオの取り扱いを一変させるテクノロジになると、我々は期待している」とOzzie氏。
Flash対抗と呼ばれているように、Webブラウザにランタイムプラグインをインストールするだけで、リッチなメディア体験とリッチインターネットアプリケーション(RIA)の動作を実現する。現在Silverlightのサイトを通じて、WindowsとMac向けにInternet Explorer、Firefox、Safari用のプラグインのベータ版が公開されている。
プログラミングに.NET Frameworkを使用できるのもSilverlightの特徴の1つだ。「昨年Webに関してはAJAXが話題を独占した。DHTMLを使ってマジックのようにユーザー体験を向上させる、非常に優れたWebブラウザのハッキングだった。だが、Ajaxの開発には限界があり、ソフィスティケートされたアプリを開発するためにJavaScriptよりも優れた言語がある。この点でSilverlightは市場を変える存在になる」(Ozzie氏)。Silverlightは「ファーストクラスの.NETランタイム環境」であり、「ユニバーサルWebの世界に.NETをもたらす存在になる」という。
また、MicrosoftはMIX07においてSilverlight StreamingというSilverlight向けのストレージ / ホスティングサービスを発表した。「クロスプラットフォーム」、「.NET Frameworkベース」、そして「サービスサポート」の3点が、現時点におけるSilverlightのアピールポイントだ。ここまで説明したところで、Ozzie氏はマイクを開発者プラットフォーム部門ゼネラルマネージャーのScott Guthrie氏に渡した。基調講演後半は、SilverlightとExpression Studioのメリットを具体的に紹介するデモセッションだ。