SaaS(Software-as-a-Service)を展開するセールスフォース・ドットコムの動きが加速している。同社は、日本郵政公社の「顧客情報管理システム」向けに、NTTデータと連携、オンデマンド・アプリケーション「Salesforce」を提供すると発表した。また、今年夏頃をめどに、国内にITベンチャーを支援するインキュベーションセンターを設立することを明らかにした。

顧客情報管理システムは、郵政民営化により、2007年10月に発足する郵便局株式会社で、個人情報利用に関する同意を得られた顧客のデータを管理、郵便局で取り扱う各種サービスのクロスセルや顧客への適切な情報提供を実行するもので、5,000以上のユーザー数となる。日本郵政公社の担当部門は「今回のセールスフォース・ドットコムとNTTデータによるソリューションは、短期間で導入でき、ユーザが使いながら個々の業務にあわせて簡単に機能強化、さらに適用範囲を広げることができる」と評価している。

来日中の米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフCEOは「世界で最も重要な日本市場で、日本郵政公社にCRMを納入することができた。オンデマンドのプラットフォームは、郵政民営化に大きな役割を果たすだろう」と述べた。セールスフォース・ドットコム(日本法人)の宇陀栄次社長は「郵政公社は直ちに高機能のCRMを必要としているわけではないが、28,000カ所という多くの拠点の情報を一元管理するにあたって、将来、必要となるアプリケーションに対応できるのは、Salesforceだけだった。理解を得るのに1年半かかった」と話す。

今回の事例により、同社は日本市場での同社への信頼度がさらに高くなることへの期待感を示している。宇陀社長は「日本の政府機関や金融業は、新しいものに対しては保守的だといわれてきたが、セールスフォースの技術に、フェアでオープンにアクセスしてもらえた。当社は、新たな要求に柔軟に対応できた。これが今回の一番大きなポイントだ」と語る。

米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフCEO

セールスフォース・ドットコム(日本法人)の宇陀栄次社長

米セールスフォース・ドットコムは2007年1月末で、世界29,800社、646,000ユーザーを擁しているが、「日本では世界で最も急速に成長している」(ベニオフCEO)という。同社によれば、国内でのユーザー数は過去1年で40%増加している。日本は世界で2番目に大きな市場であり、ここで確固たる地位を築くには「日本に骨を埋めるというくらいの気概で、(顧客、パートナーとの)関係を構築していくことが重要になる」(同)として、「日本にもオンデマンドのビジネスが間違いなく広がってきている」と指摘する。

また、SaaSモデルは「常に新しい製品をアップデートしている」(同)ことが日本市場で特に大きな意味をもつと強調する。これまで「日本企業は、米国のソフトベンダーに距離感をもっていたのではないか。バグの修正、日本語化などに手間がかかっていた。セールスフォースの場合は、日米同時に最新版を提供できる。これは大事な特徴だ」(同)からだとしている。

インキュベーションセンターは「若い企業に成功してもらいたい」(同)との目的で、米国ではサンマテオに開設、同社のデータセンター、データベース、開発ツールなどを利用して、ベンチャー企業の事業展開を支援する。資金面では、同社とは別にベンチャーキャピタルが援助する。国内での対応については詳細を示さなかったが、ほぼ同様のものになるとみられる。

ベニオフ氏は新たな指針として「The Circle of Success」を掲げ、「ソフトの時代は終焉を迎えた」と話す。「これまでの大手ソフトベンダーは、ソフトを購入してもらうことが主な目的であり、管理もユーザー任せだったが、セールスフォースはインターネット経由でサービスを利用してもらい、ネットに接続すれば成功につながる」と主張している。

米セールスフォース・ドットコムは2006年10月に、新機能のアイデアの投稿を募るオンライン・コミュニティ「IdeaExchange」を開設しており、それらのなかから優れたものは、製品に盛り込まれる。さらに、これらアイデアは、同社の開発プラットフォーム「Apex」で具体的な製品にすることができる。その製品は、アプリケーションのプラットフォームである「AppExchange」で広く紹介され、さらに販売や決済のサービス「AppStore」で売買される。このような一連の流れを、同社は「The Circle of Success」と表現しているわけだ。

CRMとして、同社の製品は「オラクルのシーベルなどと比較されるが、もはや土俵が異なるのではないか。eBay、Yahoo!、Googleなどの法人向け版のようになっている」(宇陀社長)と同社ではみている。これまで同社は、アプリケーションをユーザー側に配置せず、インターネットを介して機能を供給するというSaaSの先覚者との位置づけだったが、この数カ月でエンドユーザーの発信する情報を活用するCGM(Consumer Generated Media)の思想を色濃くしている。SaaSの領域への進出を図る、米オラクル、独SAP、米マイクロソフトに対する優位性としていきたいとの考えがうかがえる。