アドビ システムズは、2007年度第1四半期(2006年12-2007年2月)の決算を発表した。売上高は6億4,940万米ドルで対前年同期比0.9%の微減、営業利益は同11.8%減の2億2,250万米ドル、純利益は同7.7%減の1億8,230万米ドルとなった。前年同期に比べると多少の後退が見られるものの、堅調な推移を見せている。2007年度の業績見通しは売り上げ目標で前年度比15%増の約30億米ドル、第2四半期の売上目標は7億-7億4,000万米ドルと発表された。
やはり、Macromedia買収によるクリエイティブ市場への影響力は甚大なものがあるようだ。2007年度の第1四半期における、プラットフォーム別の売上比率では同市場からの売上が53%を占めている。これはコンテンツ作成における同社の地位がほぼ盤石であることを示している。
アドビ システムズ CEO ブルース・チゼン氏 |
そのMacromedia買収であるが、同社のCEOであるブルース・チゼン氏によれば「大変だったが、1年過ぎてみて期待以上の成果を出せて満足している」とのこと。同氏はこれからもM&A戦略について、「成長力の高い小さな企業をターゲットにするという方針に変わりはない。またMacromediaのような(大きな)企業を買収する際には、それ相応の戦略が必要となるだろう」と語った。
さて、今回の記者会見では決算報告もさることながら、同社の次なる事業戦略について注目が集まっていた。最も注目されていたのはもちろんApolloであるが、それ以外にもいくつか大きなポイントが存在する。順を追ってみていこう。
Adobe Creative Suite 3
Adobe Creative Suite(CS)は、プリント/Web/モバイルなど、あらゆる用途に対応する統合デザイン環境である。チゼン氏は、CS3について「Adobeの25年間の歴史の中で、最大のソフトウエアリリースになる」と説明。13種類の製品と7つのテクノロジーが統合されているという。近年のプロフェッショナルは、以前のように専門分野に特化するのではなく、複数の分野を同時にカバーしなくてはならないという環境にある。CS3はそうした悩みに答え、統一されたUI、アプリケーションをまたいだワークフローの統合により、強力にクリエイターをバックアップするという。
Photoshopファミリー
CS3になり、Photoshopファミリーは用途に応じてさらに細分化された。趣味でデジタルコンテンツをいじる人のためのElements、アマチュア向けのLightroom、プロの写真家/デザイナ向けの通常版、建築/医療などに従事するより高度な編集機能が必要なユーザ向けのExtendedである。将来的には「Express」という、オンラインでデザイン編集ができる製品をラインナップに加える予定だとのことである。
アドビは、業界標準となっていたPDFの仕様をISOで標準化する動きを始めている。こうした取り組みにより、さらなるPDFの地位安定を図ると同時に、パートナー企業の力を借りてモバイル機器やゲーム機でもPDFを閲覧可能にしていくという。
Apollo
そしていよいよApolloである。既報の通り、Apolloは、すでに標準的になっている様々なWeb関連テクノロジーを用いて、スタンドアローンのアプリケーションを作成するための技術だ。現在はパブリックα版というステータスであり、HTML、Ajax、Flexといった技術が統合されているが、正式リリースではPDFも取り扱うことができるようにするとのこと。また、Apolloを使用するとインストーラを作成する必要がなくなることも利点として挙げられた。
チゼン氏によると、Apolloで最も素晴らしい点は、先にあげたような標準技術を使っているため、デベロッパー、デザイナともに追加のスキルが全く必要ないことだという。同氏がApolloを投入する狙いはただ一つ、ユーザの体験を真の意味で革新することだと語った。
Apolloについては同社のプロダクト&セールスエンジニアリング部 プロダクトスペシャリストの太田禎一氏によるデモンストレーションも行われ、Apollo上でGoogleやYahoo!といったWebページを表示し、それを本のページをめくるがごとく切り替えていた。
Adobe Media Player
そして最後がAdobe Media Playerの発表だ。この製品の一番の特徴はビデオコンテンツを用いたビジネス展開が可能なようにプラットフォームとして位置づけられていることである。同ソフトはストリーミング再生とダウンロード後再生のどちらにも対応し、再生時にブランド広告を表示させることができる。コンテンツに対しての完全な改竄防止と、再生/閲覧に関しての信頼できる情報を取得できるため、企業としても課金が容易だとのことである。
さらに注目すべきは、Media PlayerがApolloで作成されていることである。これは、メディアプレイヤーという複雑なソフトウェアを作れるだけの潜在能力がApolloにあるということを表すと同時に、このような魅力的なソフトウェアを動作させるのにApolloのランタイムをインストールする必要が生じるという点においても、非常に重要なことである。