IP電話サービスを提供する米Vonage Holdingsは4月12日(現地時間)、同社最高責任者(CEO)のMichael Snyder氏が同職ならびにボードディレクターを4月11日付けで辞職したと発表した。新CEOが決定するまでの間、同社会長のJeffrey Citron氏が暫定CEOの座につくことになる。既存の電話市場の勢力図を塗り替えるべく鳴り物入りで登場したVonageは、米国のIP電話事業者最大手として徐々にその契約者数を増やしていった。だが近年では当初の予測ほどには市場が成長せず、宣伝コストばかりがかさむ状態が続いていた。さらに追い討ちをかけるように株主訴訟や、大手電話会社の米VerizonからIP電話に関する特許侵害で訴訟を起こされるなど、度重なる苦難に迷走が続いている。同社ではトップ交代とともに、コスト/人員削減によるリストラプランの実施で経営の立て直しを図る。

IP電話事業の雄として急成長を続けていたVonageは、そのサービスインからわずか数年で株式公開(IPO)を申請するまでに達していた。だが、さらなるステップアップになるはずのIPOが、同社にとっての苦難の始まりとなった。2006年5月にニューヨーク証券取引所への上場を果たした同社の株式は当初17ドル台の価格をつけたものの、直後に14ドル台へと急落し、公開初日で公募価格割れを起こす結果に終わっている。

これが引き金となり、上場時に株式を購入した株主らによって「上場にあたって公開した目論見書と実際の事業内容に隔たりがある」と集団訴訟を起こされる事態にまで発展した。ここで指摘されたのは、同社が株式公開と契約者獲得数増大を急ぐあまり、宣伝マーケティングに多大な予算が投入される一方で、実際の事業は赤字続きだったというものだ。Vonageでは上場以前、その目的を新規契約者獲得のための宣伝予算等に充てると目論見書で公開している。

さらにこうした事態に追い討ちをかけるように、2006年6月にはVerizon CommunicationsからVoIPに関する特許をVonageが侵害しているとして訴えを起こされた。この訴えはその一部が2007年3月に認められ、Verizonに対する賠償金を支払う判決が言い渡された。さらに6日には同特許を用いたサービス、つまり同社のすべての接続サービスの新規顧客への提供を停止する仮判決が出されており、事実上、新規顧客を獲得できない状態に陥っていた。

こうした経過の中で同社はCEO辞任とともに2007年第1四半期(1-3月期)の決算を発表しており、同期の売上は1億9,500万ドルで、四半期内の新規契約数は33万2,000人となる。暫定CEOのCitron氏は事業立て直しのリストラプランとして、これまで同社の屋台骨となっていた2007年のマーケティング予算を当初の3億1000万ドルから1億1000万ドルにまで圧縮し、さらに従業員の10%を削減する計画を打ち上げている。急成長路線を描いていた同社のビジネスプランは、株式市場と競合との訴訟問題で見直しを迫られた形となる。