「自由研究」。
この言葉を聞いて、小学生のころ、夏の暑い日にセミの鳴き声を聴きながら、時間を忘れて何かに集中してみたり、夏休み最終日に取りあえず仕上げて提出してみたり、「夏の思い出」の一つとして記憶に残っているのではないだろうか。
そして大人になった今、好きな時間を確保することすら難しい中で、わくわくする瞬間も減ってしまっている人も多いのではないか。
そこで今回、小誌では「マイナビニュースTECH+会員数10万人突破企画」として、「大人の自由研究」を企画し、これまで取材に協力いただいた企業に「大人の自由研究をしてほしい」とお願いした。
4社目となる今回は、内田洋行が手を挙げてくれた。取材では、内田洋行がプログラミング教材として公教育向けのカリキュラムやオリジナル教材開発に携わり、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが開発・発売しているロボットトイ「toio(トイオ)」を中心に、筆者らも実際に現代のプログラミング教育を体験してきた。今回は前編として、「toio」がどのような教材なのか紹介していく。
1台のロボットで学ぶプログラミング
今回取材で、編集部一同は内田洋行新川本社にお邪魔した。
案内されたフロアには人体模型やデジタル顕微鏡などが置いてある理科室を模したような空間が広がっており、自身が小学生の頃を思い出せる、なんだか懐かしい空間が広がっていた。同時に、内田洋行はリアルの学校現場・教育現場を想定しながら日々試行錯誤していることが窺える瞬間でもあった。
早速筆者らは、理科室のような部屋に案内され、今回フォーカスするプログラミング教材「toio」の案内を受けた。
筆者らは取材を迎えるまで、「プログラミング教育」と聞いて、パソコン画面とにらめっこをしながら難しいプログラミング言語を用いて指示を入力していく方法を学ぶものだと想像していた。
しかし、机に準備されていたのは、なんともかわいらしい立方体のロボットであった。これこそ今回の主役「toio」である。これには少し驚いた。
用意されていた「マス」がかかれたシートに置かれたtoioは、指令に合わせて前後左右に自在に動く。そこまではいたって普通のロボットに思えるが、動きの仕組みを聞いて驚愕した。それは、「シートにプリントされた目に見えにくいほど細かい模様を読み取り、その情報からロボット自身が現在地を把握する」という、ソニーが持つ技術を活かしたものだったからだ。目を凝らしてやっと見えるか見えないか程度の細かい模様を、toioの下についているセンサーで瞬時に読み取り、現在地を把握しPC上に表示する技術は、ソニーが持つ技術の賜物だとのことである。
このtoio本体を学習者はPCと接続し、PCで入力した指令をもとに動かしながら学ぶことができる。
実際に筆者らも体験させていただけたので、最初に小学校低学年向け教材を見せてもらった。こちらは絵本と指令カードで構成されており、PCにまだ慣れていない生徒でもプログラミングの基礎を学べる教材である。
「ロボットが動くことで直感的に操作でき、かつ自分の分身として現実世界に実体を感じることで、感情移入して楽しみながら身につくことできる点が評価されています」(田中氏)
目の前のカードを組み合わせて思考錯誤しながらページごとに出題される内容をクリアしていく過程は、大人である筆者らも思わず仕事を忘れて楽しんでしまうほど、直感的で興味を持って学べると感じた。組み合わせた指令をtoioが読み込み、それをコースの上で走らせるのを見守る瞬間は、童心に帰ってわくわくした。
また、一見パズルのようなカードにも、プログラミングの基礎を学べる要素が詰まっているところもポイントが高い。
「プログラミング言語でいう順次・分岐・反復といった条件3原則が網羅できる内容になっています。これを通してロボットを動かすことに対して親しみを持ってもらうことで、さらに発展的に学んでいくことができます」(田中氏)
まずは、絵本の中のストーリーに沿ってプログラミングの基礎を学び、その後にPCを使って発展的な内容を学んでいく現状のプログラミング教育は、生徒が興味を持って学べる仕組みが多く散らされており、筆者も学生時代にも同様の学習機会があれば良かったのにと感じさせられた。
最初は教材ではなかった「toio」
今回の自由研究企画では、プログラミング教育としての「toio」にフォーカスしているが、もともとは教材としてのコンセプトではなかったという。
「もともとは遊ぶためのロボットというのをコンセプトに、プログラミングもせずに、「toio」の上に自身で作った工作を乗せたりブロックを積み上げたりすることで、自分が作ったロボットが動き、それを主人公に男女関係なくストーリーを作りながら遊んでもらえたら、という想いで開発していました」(田中氏)
そんな中、お互いのロボットの居場所が分かる技術やロボットを使った学びに着目し、授業でも採用したいとの声が高まりつつあったようだ。そこで実際に教材として開発を進めるべく、タッグを組んだのが内田洋行だった。
教材として活用していくには、学習指導要領に沿った内容でのカリキュラム設定が求められる。実際に全小学校でのプログラミング教育が必修化された背景も追い風となり、PCを使わずにカードを使って学ぶ基礎的なカリキュラムから、高等学校で学ぶより高度な内容に向けた基礎学習を網羅できる内容を作り上げたのである。
それを経て、教育現場でも「toio」は活用され、日々の生徒の学びに役立てられているのである。実際に、千葉県流山市では市内の市立小・中学校で、児童生徒が1人1台の「toio」を使いプログラミングを学んでいるという。
後編となる次回は、「toio」を通して内田洋行が考える「プログラミング教育のこれから」を中心に、自由研究を通して見えてきた内容について紹介する。
8月22日に公開した初出に誤解を招く表現を使用しておりましたので、修正いたしました。 初出で、内田洋行がtoioの開発を行ったと取れる表現を使用してしまったのですが、正しくは、内田洋行はプログラミング教材として公教育向けのカリキュラムやオリジナル教材開発に携わり、開発・発売はソニー・インタラクティブエンタテインメントが行っております。 ご迷惑をおかけした読者の皆様ならびに関係各位には深くお詫び申し上げます。