「自由研究」
この言葉を聞いて、小学生のころ、夏の暑い日にセミの鳴き声を聴きながら、時間を忘れて何かに集中してみたり、夏休み最終日に取りあえず仕上げて提出してみたり、「夏の思い出」の一つとして記憶に残っているのではないだろうか。

そして大人になった今、好きな時間を確保することすら難しい中で、わくわくする瞬間も減ってしまっている人も多いのではないか。

そこで今回、小誌では「マイナビニュースTECH+会員数10万人突破企画」として、「大人の自由研究」を企画し、これまで取材に協力いただいた企業に「大人の自由研究をしてほしい」とお願いした。

連載第5回となる今回は、その中で手を挙げてくれたウェザーニューズの「花粉症研究」を取り上げる。解説してくれたのは、気象予報士でもあり広報担当の中村好江氏だ。

  • 今回話を聞いた中村氏

ウェザーニューズの花粉調査への取り組み

ウェザーニューズでは、「花粉症の人たちの役に立ちたい!」という思いから、2005年に「花粉プロジェクト」が立ち上がった。

このプロジェクトでは、花粉の飛散量予報や花粉対策アラームの配信を、主にウェザーニューズのユーザーに向けて行っている。その予測には、「ポールンロボ」から送信される花粉観測データや、ユーザーから報告される症状報告などを分析、解析したデータが用いられている。

ポールンロボは全国約1000箇所に設置されていることから、地域密着型の花粉観測データの取得が可能になり、各地の気象データと掛け合わせた花粉予報の発信に役立てられているという。

日本で唯一の花粉観測器「ポールンロボ」

ウェザーニューズでの花粉観測にはポールンロボが活用されているのは先述の通りだが、一体ポールンロボとはどんなものなのだろうか。

ポールンロボとは、「花粉プロジェクト」の中で、花粉予報に用いられている、ウェザーニューズが開発したスギ花粉とヒノキ花粉を計測するロボットだ。

「愛着を持てるようなデザインにしようという想いから、丸い形にしています」と、中村氏が話すように、球体に目・鼻・口がついたデザインがかわいらしい。

ポールンロボの中に花粉センサーが搭載されており、センサーが発するレーザー光に当たった粒子の大きさや表面の形から花粉かどうかを判別し、データを取る仕組みとなっている。

実際の飛散量はリアルタイムで目のライトの色で判別できるほか、ウェザーニューズのアプリやサイト内でも公開されている。ポールンロボはまさに「花粉に目を光らせている」のである。

  • ポールンロボの飛散量ごとの目のライトのイメージ

ポールンロボの設置場所は一般ユーザーの家庭や病院、公民館などさまざまだ。実際に設置している眼科では、独自で観測データを取って病院内に表示し、患者さんとのコミュニケーションのきっかけにもなっているという。

現在運用されているポールンロボは、8代目である。では、2005年の開発初期から現在に至るまで、どんな変遷を遂げたのだろうか。

初代が開発された当時は、現在の吊り下げ式ではなく、床に置く形で都度ユーザーが見に行き、数値を報告するといった形式で運用されていたという。初代版にもフェイスデザインが施されており、愛着の持てるデザインは現役のポールンロボとの共通点だ。

設置型から吊り下げ式に移行されたのが、2007年から運用を開始した3代目ポールンロボである。形も角ばった形式から球体にシフトチェンジし、現役に近いデザインとなった。しかし3代目は発泡スチロールでできており、静電気によって本体に花粉が付着するため計測がままならなかったという。大失敗に終わったのである。

そこで2009年の4代目からは素材の見直しが行われ、これに伴って本格的にビジネス展開されていった。

  • ポールンロボの変遷

2つの種類からなる花粉観測方法

ここまでポールンロボの話をしてきたが、そもそも花粉観測にはどんな種類があるのだろうか。ここでは下記2つを紹介する。

ダーラム法

この手法は、保健所や病院など、全国約150カ所で用いられているそうだ。計測方法は1日1回ガラス板に付着した花粉を顕微鏡で数えるといったもので、スギやヒノキなどの花粉の種類が見分けられるのが特徴だ。一方で、1日単位でのデータしか取得できないことや、観測自体に多くの労力と時間がかかってしまうことが欠点と言える。

自動観測

今回取材したポールンロボが、この観測法に当てはまる。リアルタイムでの自動観測ができる点が特徴の自動観測だが、ポールンロボ内の花粉センサーが空気中の粒子が花粉かそれ以外かの判別のみとなっているため、花粉の種類までは判定が難しいという欠点もある。

過去には環境省の花粉観測システム「はなこさん」を全国約130カ所に設置していたが、2021年末に運用が終了したため、現在はウェザーニューズが所有するポールンロボが国内唯一の花粉自動観測網となっているそうだ。

  • 吊り下げられるポールンロボのイメージ

本稿で紹介してきたポールンロボによる花粉観測データと、ユーザーによる症状報告、そして独自の気象データを用いることで、きめ細かな花粉予報が成り立っているのである。

次回は、実際のウェザーニューズが観測してきた花粉観測データから見えてきた全国各地の飛散量の特徴やユーザーのアンケート調査をもとにした症状の違いについて、紹介する。

今井理央

2022年にマイナビへ新卒入社。入社から現在まで、TECH+での広告施策・リードジェネレーションのソリューション営業を担当。10万人突破記念企画プロジェクトにおいては、大人の自由研究企画をメインに携わっており、記事の執筆は本企画が初となる。「ITとテクノロジーの可能性」について日々勉強中。趣味はカフェ巡りとお散歩。