大人になると日々の仕事と生活に追われ、自身の趣味に費やす時間は往々にして取れないものである。資格取得に向けた勉強やダイエットのためのジム通い、英会話、イラスト、カメラなどなど、「時間さえあればやりたいこと」は挙げれば切りがない。
そして「時間さえあればやりたいこと」は、いざ時間があってもあれこれと理由を付けて結局始めないのも、また世の常である。筆者らは今回、「マイナビニュースTECH+会員数10万人突破企画」として「大人の自由研究」を企画した。その取材を行うにあたって、いくつかの企業に「せっかくの機会なので、普段やりたいけれども時間やお金の都合でできていないことを"自由に研究"してほしい」とお願いした。
そこで手を挙げてくれたのが、暗号資産取引所「Coincheck」やNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)のマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」などを運営するコインチェックのエンジニア、西澤洋祐氏だ。
パティシエからNFTエンジニアデビューした西澤氏
西澤氏は現在でこそコインチェックでNFTの開発を行っているエンジニアだが、驚くべきことに、なんと前職はパティシエだ。フランスで修行していた経験も持つ。そうした経緯から、社内外で「実は以前パティシエをやっていました」などと自己紹介する場面もあったという。
ある日、会社に手作りのイタリアンプリンを差し入れたところ、「せっかくNFTの開発に携わっているなら、プリンのNFTを作ってみたらいいのでは」とコメントがあり、実際にプリンをモチーフにしたNFTを作成した経験も持つ。
かわいらしいプリンのイラストを自作してから、各パーツをデータ化してジェネレーティブなNFTを作ったという。なお、詳細は同社のブログに詳しい。
西澤氏によると「何か物を作るという意味ではパティシエもエンジニアも似ている。自分は同じことを続けるのが苦手なので、思い切って違う世界のエンジニアに挑戦してみた」のだそうだ。
そもそもNFTって?
最近よく目にする機会が増えた「NFT」だが、一体どのようなものなのかをおさらいしよう。NFTは日本語で非代替性トークンとも呼ばれるように、アートやファッション、不動産などのデジタルデータ(トークン)が唯一無二であり、代替できない特徴を持つ。
改ざんが難しいブロックチェーン上に取引の履歴が残るため、唯一無二のデータであると証明できる仕組みだ。同じくブロックチェーン技術を用いているビットコインなどの暗号資産はFT(Fungible Token:代替性トークン)と呼ばれ、1BTC(BTC=ビットコインの単位)は当然1BTCと価値が同じなので代替できる。
NFTの取引を行うマーケットプレイス(市場)の中でも有名なのは「OpenSea(オープンシー)」だろう。実はコインチェックも、NFT向けのマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」を手掛けている。普段は西澤氏もCoincheck NFTに携わっている。
両サービスの違いは、OpenSeaがオンチェーンであるのに対し、Coincheck NFTはオフチェーンである。オンチェーンとはブロックチェーンを使った取引の処理を指し、暗号資産やNFTのやり取りの記録は随時ブロックチェーン上に刻まれる。
一方のオフチェーンはブロックチェーンとは切り離された処理を指し、暗号資産やNFTの売買の記録はすぐにはブロックチェーンには刻まれずに、一度企業内部のデータベースに保存される。
一見すると、NFTの正確性を担保するためにはオンチェーンのサービスの方が適しているように感じる。しかし、なぜオフチェーンのサービスも存在するのだろうか。それは、ブロックチェーンならではの手数料、通称「ガス代」の存在に由来する。
ブロックチェーンは、特定の企業ではなく世界中の複数人が取引のためのトランザクションやプログラム処理を管理している。イーサリアムの場合はPoS(Proof of Stake)なので「バリデータ」によって管理されている。バリデータは、ビットコインなどPoW(Proof of Work)を採用しているブロックチェーンのマイナーに相当する。
バリデータやマイナーに支払う手数料がガス代だ。NFTを出品する際や購入する際にガス代が発生する。ガス代は処理するトランザクションの数や暗号資産の相場によって常に変動する。
通常のEC(Electronic Commerce:電子商取引)サイトなどで物品を購入する際は商品の価格と送料が明確になっており、その金額のみを支払えば購入できるが、NFTの場合はNFTそのものの価格に加えて変動するガス代も支払う必要がある。タイミング次第で数百円~数千円の差が生じるので、ユーザー目線では分かりづらい課題がある。
「せっかくNFTに興味を持った人がいても、ガス代など煩雑な処理や計算があるとユーザーは離れてしまう。金額がわからないものを購入する心理的な障壁もあると思う。そこで、Coincheck NFTは初心者や中級者向けに入り口を開くために、オフチェーンのサービスとして提供している」(西澤氏)
マーケットプレイスってノーコードで作れるの?
今回、"大人の自由研究"として西澤氏が挑戦したのは、OpenSeaやCoincheck NFTのようなマーケットプレイスを自身でゼロから作成することである。なんと、最近はノーコード・ローコードでマーケットプレイスを作成できる開発ツールもあるという。
今回は、ブロックチェーンを使用したアプリケーション開発をノーコード・ローコードで行える「Bunzz」(バンズ)を使って、マーケットプレイスの開発に挑戦した。
次回はその結果について、お届けしたい。