「恋のお師匠・ジュテーム清水」が毎週木曜にレッスン!

「あなたはそのままでいい。自分らしく生きていればいつか運命の男性が現れるよ」。こんな甘い恋愛アドバイスに真っ向から反論する男がいます。その名は、"ギターを教えなくても稼げるギター講師"こと清水邦浩くん。「恋のお師匠・ジュテーム清水」の変名も持つ彼は断言します。

「恋愛は楽器演奏と同じ。正しい方法論にのっとって努力(練習)を重ねることで必ずうまくなります。自己流のやり方で彼氏ができないのであれば、僕の方法を試してみてください。運命なんて今すぐ変えられますよ」

ギター教室の生徒たちの恋愛相談を受け続けて10年。清水くんはついに「恋愛力を高める方程式」にたどりつきました。音楽とビジネスの理論を組み合わせて編み出したその方法論を惜しみなく公開します。

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「下見」なんて許さない! いつだって今が本番です

今すぐ恋人を作って結婚し、次の誕生日までには出産をしたいと本気で願う女性がいます。愛知県のブライダル関連会社で働くユリさん(仮名、32歳)です。そして本気な人が大好きなのは、"ジュテーム清水"こと我らが清水くん(36歳)。ぶっちゃけキャラで実行力もあるユリさんを大いに信頼し、「1カ月以内に彼氏ができる! 」とお墨付きを与えました。

座して待っていても出会いはありません。愛知県三河地方で大企業勤めの男性会社員が集まっているという刈谷駅まで繰り出して、居酒屋で飲んでいる男性と携帯番号を交換することにしました。女性のユリさんにとってはハードルが高いのでないかと心配する僕に対し、清水くんは平然としています。

「心配は要りません。トヨタ系列企業に勤めている友だちに聞いて、彼らがよく飲んでいるお店をリサーチ済みですから」

うーん、そういう問題ではなく、見知らぬ人に声をかけて連絡先を聞くこと自体が恥ずかしいし怖いんですよ。接客には慣れているユリさんも、表情がなくなるほど緊張しています。

清水くんが案内してくれたのは、駅から徒歩5分ほどのところにあるイタリアンバル。扉を開けると、女性の店員さんが明るく迎えてくれました。おしゃれで、20代から30代前半の独身男女が気軽に集まるにはちょうどいい雰囲気です。

ただし、店内の客は僕たちだけ。お店の人に聞くと、月曜と火曜はお客さんが少なめで、繁盛するのは週末とのこと。今日はまさに月曜日……。「土日は無理ですが、金曜日ならば休みを取れるかもしれません。今日は下見、ということにしましょうか」と、どこかホッとした表情を浮かべるユリさん。ビールを飲みながら近況を話してくれました。会社のつながりでコンサートのチケットを入手したので、好きな人リスト第1位のケンジさん(連載第8回参照)を誘うつもり、とのこと。

「ケンジさんにはもったいないですよ。彼はもはや当て馬。今夜、出会った男性を誘いましょう」と清水くん。いつの間にか顔から笑みが消えています。清水くんはかわいい生徒であるユリさんになんとしてでも前に進んでほしいのですね。せっかく刈谷まで来たのだから「下見」などは許さないぞ、という真剣勝負の姿勢です。

お父さん世代7割の大衆居酒屋で、若い男性2人組を発見!

1時間ほど待っても女性客しか入ってこなかったので、お店を替えることにしました。次の店は、清水くんが何度も行ったことがある昭和感あふれる大衆居酒屋です。安くてうまくてアットホーム、とのこと。僕も個人的にはこういう店のほうが好きだな。

のれんをくぐってみると、お店はほとんど満席状態。感じのいい店員さんにテーブル席を案内されて、店内を見渡しました。客の7割ぐらいはお父さん世代ですが、ちらほらと若い男女も交じっています。これは私見ですが、こういう店で楽しく飲んでいる若い常連客はくだけた人柄であることが多いですよ。気取らない恋愛がしたいユリさんにはお勧めです。

ん? 隣の団体客を挟んで向こう側に、いい感じの男性2人組がいます。ポロシャツから出ている腕がたくましいけれど、ヤンキー風でもなく、落ち着いた雰囲気で「焼とん」を食べています。ユリさん、あの2人はどうですか? というか、あの2人にしましょうよ。

「先ほど話していたコンサートのチケット、今ありますか? 『チケットがあるので一緒に行きませんか? 』と誘えばいいんですよ。はい、行ってらっしゃい! 」と、せかし始める清水くん。あいにくユリさんはチケットを持ってきていません。そして、完全に腰が引けています。そりゃそうだよね……。

ここでお店から思わぬサプライズが! 手作りのくじを引かせてくれたのです。清水くんと僕は「ハズレ」の300円割引券でしたが、ユリさんが当てたのはなんと中日ドラゴンズの公式戦ペアチケット! 大当たり、というわけではなさそうですが、ユリさんにとっては最高のプレゼントです。

背中を押されたユリさんは、「トイレに行ってきます。で、その帰り道であの2人に話しかけてみます」とやる気に。なるほど、それは自然だ! 清水くんと一緒に席から見守っていると、ユリさんは肉体派の2人組に本当に話しかけています。しばらくすると携帯も取り出しました。これは、もしかして……。

勇気のご褒美は、顔をクシャクシャにして笑う爽やかな消防士

予想外の大物を釣り上げたユリさん。清水くんと勝利の握手!

「消防士さんたちでしたよ。手前にいる男性はおそらく既婚者です。『これ、さっき当たったんでよかったら一緒に行きませんか? 』と言ったら、感じ良く応対してくれて『オレはあまり野球に行かないけれど、お前は行ける? 』と、後輩らしい相方に声をかけてくれました。正直言って、私はその後輩のほうが好みです! 鈴木さん(仮名)という方らしくて、顔をクシャクシャにして笑う爽やかな好青年。『1日出勤して1日休む勤務なので、シフトを確認して連絡します。僕が仕事で行けなくても、他に行ける人はいると思う』と親切に答えてくれました」

消防士ゲット! 土日が休めないユリさんにとっては、大企業の社員よりも相性がよい人たちですよね。何と言っても人の命を救うお仕事、男らしくて優しい男性が多そうです。ユリさん、鉱脈を発掘しましたね!

「はい。好きな人リスト、鈴木さんが断トツの第1位です」とユリさん。こじらせ系のケンジさんはあっという間に1位から転落。優柔不断で不誠実な男の末路ですね……。

「すぐにメールを送りましょう。ただし、あっさりのほうがいいです。『今日はありがとうございました。野球、楽しみにしています』だけでいい。がっつきは禁物です」。言葉は慎重ですが、うれしさは隠せない様子の清水くんは満面の笑みを浮かべています。

さて、ユリさんは本当に彼氏を作ることができるのでしょうか? その相手は鈴木さんなのか。やっぱりケンジさんに戻るのか。いよいよ来週、最終回です!

<著者プロフィール>
大宮冬洋(おおみや・とうよう)
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)など。読者イベント「スナック大宮」を東京と愛知で不定期開催。食生活ブログをほぼ毎日更新中。

<協力者プロフィール>
清水邦浩(しみず・くにひろ)
ギター講師。愛知県岡崎市・蒲郡市で清水邦浩ギター・ウクレレ教室を経営。