【質問】大事なデータをごみ箱に捨ててしまった、さあどうする!?

PC上で「不要なデータはしばらくごみ箱に溜めてから削除」といった操作をしている人は少なくないだろう。そして、「ドカンとデータを消した直後に古いデータが必要になって真っ青!」という経験がある人も多そうだ。もっとも、寄りによって捨てたばかりのデータが必要になるという事件は紙の書類でも珍しくない。

そんな事態に陥らないためには、「データを捨てる前に十分確認する」、「ごみ箱を空にする前に中身を確認する」などの対策が有効だ。とはいえ、やってしまう時はやってしまうもの。そんな時、どのように対処したらよいだろうか?
  1. いさぎよく諦める
  2. がんばって自力で拾い出す
  3. 費用は勉強代としてプロに依頼する

PCでごみ箱に捨ててしまったデータは元に戻すことはできるか? (イラスト ナバタメ・カズタカ)

【回答】データは復旧可能! スキルがあれば自力で救出も!

実は「ごみ箱を空にする」でデータを消去した場合は、ほぼ確実にデータを復旧できる。そのためのソフトも販売されているので、ある程度PC に詳しい人であれば、自分でチャレンジしてみることも可能だ。

データを復旧できるかどうかの分かれ目は「やっちゃった!」と思ったら、とにかく何もしないこと。PCの電源を落とすくらいならともかく、ブラウザを立ち上げて対策方法を探し回ったり、対策ソフトをダウンロードしたりすればするほど、大事なデータが戻ってくる可能性は低くなってしまうのだ。その理由は、この先を読んでもらえればわかるだろう。

データ復旧が意外と簡単にできる理由は、HDD に対するデータの記録の仕組みにある。大まかではあるが、そ の仕組みをここで説明しよう。

HDDに断続的に書き込まれるデータ

HDDの中には円盤状の記録媒体が格納されているが、レコードやCDのように内から外、外から内に向けて螺旋状に連続してデータを書き込んでいるわけではない。100GBのHDDに10MBのデータを保存するとしたら、100GBのどこかに10MBを書き込んでいるのだ。しかも、10MBが細切れになって書き込まれていることもある。

データが書き込まれた部分には「この部屋にはもうデータが入っています」というマークがつけられている。「使用中」と旗が掲げられているようなイメージだ。そして「ごみ箱を空にする」という作業が実行されると、その旗が倒される。この時、部屋の中のデータは何もされていないが、「この部屋はもう使えますよ」というマークが付けられる。

つまり、旗が倒れた部屋の中にはまだデータは残っている。よって、すかさず部屋を特定して引っ張り出せば、めでたくデータは帰ってくるというわけだ。ただし、書き込みOKの状態になってしまっているから、ブラウジングで溜まるキャッシュや新たにダウンロードしたファイルがそこに書き込まれてしまえば(上書き)、元のデータは消えてしまう。新しいソフトのインストールだってNGだ。最初に書いた対策ソフトのダウンロードを行うということは、すなわちこの上書きが起こる可能性があるということなのだ。

データ復旧ソフトは別なPCで試そう

市販のデータ復旧ソフトは、最近旗が倒された部屋を探し出してくれる。だから、とにかく何もせず、素早く復旧作業にかかるほうがよい。

「そんなことを言われても、データ復旧ソフトをインストールしなければ作業できないじゃないか!」と思う人もいるだろう。しかし、混乱することはない。答えは簡単で、別のPCで作業すればよいのだ。

調べ物だって、ソフト購入だって別なPCでやれば大丈夫。なかには、USBメモリにインストールすることで、本体のHDDにデータを書き込むことなく復元作業ができるソフトもあるから、2台目のPCが用意できない場合にはそうしたソフトを利用するのが得策だ。

さて、復旧ソフトといってもいろいろなものが出回っており、何を選べばよいのか迷ってしまうかもしれない。この質問に対する答えは「試してみて」としか言えない。フリーの復旧ソフトもあるが、大事なPCのデータの復旧だ、ケチらずに有償のパッケージを選ぶことをオススメしたい。

そして、大抵の有償パッケージには試用版が用意されているので、まずはそれで試してみよう。「このソフトは自分のデータを何とかしてくれそうだ」と確信できてから、購入すればよい。

結局はバックアップが最大の近道

もちろん、自力で何とかするのが難しそうなら専門業者へ頼めばよい。もっとも、専門業者だって市販のソフトと似たようなソフトで復旧作業をしているし、上書きされてしまったデータを取り戻すことはできない。でも、お値段は専門家なりにかかる。この記事を読んで自信がついた人は自力でチャレンジしてみてもよいだろう。

専門家に任せるにしても、自分で頑張るにしても、出費は避けられない。ムダな出費を避けるにはどうすればよいかと言えば、やはりバックアップだ。どのメディアにバックアップすれば絶対安心というものではないけれど、メディアを分散して保存したり、頻繁にバックアップを取ったりすることで被害は最小限に抑えられる。一番の対策は日々の地道な努力というわけだ。

その暗号化、本当に必要!?

データ復旧の現場において暗号化は鬼門だ。暗号化されていないHDDなら楽勝な案件も、「実は暗号化されています」と言われた途端に"負け戦"の気配が濃厚になる。

データを復旧するにあたり、復号のための鍵が必要になるのだが、大抵のエンドユーザーは暗号化されているという認識もない。したがって、もちろん鍵も持っていないことが多い。そこで、情報システム部門に話を回してもらっても、「内部統制の関係上外部に鍵は出せません」と言われてしまうことがある。ひどい場合には、情報システム部門ですら鍵のありかを把握していないことまであるのだ。

「データを暗号化した状態のまま復元してください」というのは無理難題だ。それが簡単にできてしまえば、暗号化の意味がない。最近増えているAESという暗号の場合、スーパーコンピュータを使っても解読には100年以上かかかると言われている。平たく言えば、暗号化されたデータの復旧は"完成図のない何百万ピースという規模のジグソーパズルにチャレンジするようなもの"なのだ。

そんな悲劇に陥らないために、ぜひ暗号化の必要性について改めて考えていただきたい。例えば、重要なデータを保存する1フォルダだけを暗号化するという手もある。はたまた、重要なデータをローカル保存しないルールならば、そもそも暗号化が不要かもしれない。

暗号化しておけば安全だからとHDDをまるごと暗号化していると、いざという時に泣くしかなくなってしまうことを頭のどこかにとどめておいていただくとよいだろう。

(イラスト ナバタメ・カズタカ)