「哲学」というと、憧れと諦めの気持ちを持つ読者も多いのではないでしょうか? そんなあなたに、哲学についてやさしく詳しく解き明かした新刊『マンガ版 教養として学んでおきたい哲学』から、一部を抜粋してご紹介します。
■哲学者が好む「そもそも~」
"基本的な前提"を疑うというときに、一番わかりやすい表現というのは哲学の議論においては「そもそも~」という問いかけ。いわゆる"ちゃぶ台返し"です。
ああでもない、こうでもないと議論している中で、前提そのものが間違っているのではないかと問い直すことで、これまでの議論すべてがひっくり返されてしまうことはありえるので、「そもそも~」というワードは哲学者が好むフレーズで、「そもそも~」から議論が始まることも少なくありません。
これはプラトンの説明ですが「こういう風にするのが真の友だちなんだ」といったとき、プラトンは「そもそも真の友とはどういうことなのか? さらに言うとそもそも友だちとは一体どういうことなのか?」といった問い方をします。
こういった問い方が哲学において"前提を疑う"ということのひとつのやり方になっています。
■「他者論」――他者の心をどう知るか?
哲学においてしばしば語られるのが「他者論」ですが、他人の心が理解できますか? という話になると、当然誰もが、常識的に「わからない」と答えると思います。
「他人が何を考えているかはわからない」というのは常識といってもよいでしょう。しかし、哲学者の場合はそこに留まらず、「他人が考えているということを一体どうやって知ることができるか?」ということをまず問い、さらには「そもそも他人は考えているのかどうか?」といった感じで、考えているかどうかすら問うことができます。
私たちが知っているのは、身体の外側だけであり、もしかすると精巧なアンドロイドのように、ただ身体を一定の方向に動かしているだけかもしれません。つまり、「他人に心があるかどうか?」ということを疑うようなことすらありますし、さらにいえば、「心とは何か?」、それすらも問い直し、「自分に心はあるのか?」というところまで疑っていくのです。このようにトコトンまで疑っていくのが、哲学のひとつのやり方なのです。
自分の見ている〝青〟と他人が見ている〝青〟が同じ〝青〟かどうかはわからないという話があります。基本的には、どのように見えていても問題はありません。例えば、私が〝緑〟といっているとき、もしかしたら見えているものは〝赤〟かもしれません。相手が〝緑〟といっているとき、〝青〟が見えているかもしれません。しかし、同じモノを見たとき、私は〝赤〟に見えていても〝緑〟と答え、相手は〝青〟に見えていて〝緑〟と答えたなら、これでも話は通じるわけです。それが、そうなっていないかどうかなんて、調べる方法はありません。
脳科学が発達している現在なら、神経細胞の動きを調べたらわかるのではないかという風に考える人がいるかもしれません。しかし、調べたところで、電流がどのように動いているかがわかる程度であり、その人にはどんな風に見えているかは、物理的なモノとして示すことはできません。さらにいえば、その人に何かが見えているということすら疑うことができるわけです。同じように見えているのか、違う風に見えているのか、確かめる方法は基本的にはありません。にもかかわらず、私たちは同じように見えていると思って生活していますし、そうでないと生活していけないのです。
■他人の心を理解できないことを知っておく
おそらく、どんなに考えても答えは出ないでしょう。逆に言えば、こういった答えの出ないことを議論し、探求し続けるのが哲学なのです。
そもそも私たちが何かを見るとか、他人が見るとか、私と他人の違いだとか、他人の心を理解するとはどういうことなのかとか、そういった〝そもそも〟を考えていくのが哲学であり、それは基本的に何の意味もないことなのかというと、そんなこともないはずです。 例えば、こういった可能性をあらかじめ了解していれば、他人と理解し合うことができなくても、まったく気にする必要がないわけです。どうして自分のことを周りが理解してくれないのか? という悩みを持っている人は少なくないと思います。しかし、よくよく考えてみれば、それは当然のことで、他人の心を理解することなんてありえるわけがないと考えてみれば、そんな悩みなんて、非常にバカバカしいものだと思えるかもしれません。その意味で、哲学的な思考は、人の気持ちを開くひとつの方法になりうるものかもしれません。
『マンガ版 教養として学んでおきたい哲学』(岡本裕一朗・永野あかね/マイナビ出版 刊)
2019年6月発売の『教養として学んでおきたい哲学』(マイナビ新書)が、マンガになりました! 哲学というと難解なイメージが先行しがちな学問です。本書では、哲学についてやさしく詳しく解き明かし、その概念、歴史、代表的な哲学者たち、主な議論など、教養として学んでおくべき主な事柄について解説します。さらに、今回、解説の前半部をマンガにすることで、より読みやすく、わかりやすい本になりました!ソクラテス、プラトン、アリストテレスから、カント、ヘーゲル、マルクス、ニーチェまで。弁証法、イデア論、実存主義、マルクス主義、分析哲学、ニヒリズムなど。知っておけば役に立つキーワードを解説! コンパクトながらも要点を整理し、漫画にした本書をお読みになれば、哲学独特の難解さに迷う心配はなくなると思います。