パナソニック ホームズが、都心部で付加価値の高い賃貸住宅を経営したい人や、ちょっといい部屋を借りて住みたい人に注目となる、高断熱仕様の多層階住宅「NEWビューノ」を2024年9月5日に発売した。パナソニック ホームズの提案する、貸す人も住む人も満足度が高いという最新の高級賃貸住宅をさっそく見ていこう。
東京・千駄ヶ谷で、高断熱仕様のマンションを見てきた
小難しい話は後回しにして、まずは実際にNEWビューノの前身となる多層階住宅「ビューノ」を見学する機会を得たのでそちらを紹介しよう。場所は東京都渋谷区千駄ヶ谷。新宿や代々木から歩ける距離でありながら、新宿御苑と明治神宮外苑に囲まれた都心の閑静な一等地だ。
8月末に竣工したばかりの建物は、70坪(約231.4平方メートル)の5階建てで、床面積は495平方メートル。元々は大家の家と3階建て賃貸マンションの2棟だったものを1つの建物に建て替えた。最上階にはオーナーが入居済みだ。
1~4階までは賃貸で、1フロアに1LDK(43.78~52.70平方メートル)と2LDK(51.57~61.57平方メートル)の2戸があり、1階はエントランスと駐車場があるため1LDKが1つのみ。オーナー宅を含めると1棟に8戸となる。月々の家賃は1LDKが18.9万~19.6万円、2LDKが28.3万~28.4万円でこの付近の相場に近いという。
今回はまだ入居者の決まっていない、1LDKの401号室と2LDKの402号室を見学した。
まずは外観と、エントランスの様子。外壁には光触媒タイル「キラテック」を採用している。このタイルは太陽光が当たると表面に水の膜が生じる親水性となっており、汚れが浮いて雨のときに落ちるセルフクリーン効果を持っている。メンテナンスの手間やコストを低減し、新築時の美しさを長く維持できるのだ。
エレベーターで4階へ上がり、1LDKの401号室から見ていく。玄関から入ってバスルームを右手に見ながらリビングへ進むと、部屋の明るさに気が付く。照明はもちろん着いているのだが、室外から窓越しに日差しが入るため明るさに余裕がある。リビングにビューノの紹介パネルがどんと置かれていて窓を隠しているが、この存在感のあるパネルがなければ外光はもっと入っていたはずだ。
床は落ち着いたダークな色合いの木目で、壁や天井は白で統一しており、室内を広く開放的に感じられる。パントリーなどの収納が豊富で、冷蔵庫や食器棚の置き場で悩むこともなさそうだ。壁という壁にコンセントプラグの差込口が用意されているのは、今どきの新築物件らしい部分と言える。キッチンの背後の窓からは墓地が見える。見慣れないと驚くかもしれないが、キッチン側の窓からの日差しが新しい建物で遮られる心配がないと前向きに捉えたい。
流行のサービスルームも備えた2LDK(2SLDK)
続いて2LDKの402号室を見る。家具が何もなかった401号室に対し(賃貸物件の内見では普通は何も置かれていない)、402号室には家具のほか、キッチンやバスルームに調度品が置かれていて、見学者が生活感をイメージできるようになっている。照明はダウンライトやペンダントライトを雰囲気のある暖色系で灯していた。ダイニングテーブルには4人分の席が用意されている。
この2LDKにはリビングと寝室の間にサービスルームと呼ばれる、1畳分くらいの空間が設けられていて、ちょっとした書斎やSOHOスペースとして利用できる。これは近年の流行で、賃貸情報サイトではサービスルームの頭文字を付けて「2SLDK」と表記するケースもある。
屋内のほぼすべての壁面にコンセンントプラグの差込口があるのは402号室も同様だが、サービスルームの机の左後ろにある壁には有線LANのコネクタが5つもあって驚いた。
寝室にはセミダブルのベッドが置かれている。キッチンの水栓やお風呂のシャワーヘッドは手元で水が止められるタイプになっていて、こうした小さなアイテムの交換にも対応しているそうだ。玄関には人感センサーが設置されており、人が入ると自動で点灯し、いなくなると自動で消灯する。これも省エネ基準に貢献している部分となっている。
都心のマンションらしい広すぎない間取りで、もっと時間があれば細かな工夫を1つひとつ見られたのではないかとワクワクする住心地の良さそうな部屋だった。
「東京ゼロエミ住宅」の最高ランクをクリアする"エコ"な家
多層階住宅「ビューノ」の見学風景を先にお見せしたが、これだけでは高断熱の仕様や住宅構造などがわかりにくいだろう。「ビューノ」がさらに進化を遂げ、今回発売された「NEWビューノ」の特徴について、市場動向や開発背景などを踏まえて解説したい。
パナソニック ホームズは、2011年に工業化住宅「ビューノ」を発売し、2017年にはビューノを9階建までの建築に対応させた。累計販売棟数は2023年度で約5,600棟を達成し、2023年度の新築請負における特建事業(併用住宅・賃貸住宅・非住宅)の売上高構成比は、53%を実現するなど、事業を着実に成長させてきた。
一方、都心部では新築マンションの価格が高騰している。単身世帯や少人数世帯の増加もあり、世帯年収1,400万円から7,000万円前後のパワーカップルや若年層のファミリーには、戸建てやマンションの購入よりも賃貸住宅への入居希望が増加する傾向にある。
ただし、賃貸と言っても妥協して選ぶのではなく「住み続けたい」と感じられるこだわりの物件を選ぶ。また、国や東京都は温室効果ガス削減に寄与するゼロエミッション住宅やZEH、震災等に強い耐震耐火構造住宅の普及を推進している。
NEWビューノはこれらのニーズを汲み取り、環境性能を向上。新しいハイグレード断熱仕様ではロックウォールをフェノールフォームに変更して外壁の熱貫流率を従来の39%に低減し、40%の軽量化も図ることで施工効率も高めた。
これにより、東京都が制定する「東京ゼロエミ住宅」の令和5年度基準(2024年9月30日まで)で最高ランクとなる「水準3」を、賃貸住宅・賃貸併用住宅の全住戸でクリアした。
なお、東京ゼロエミ住宅は2024年10月1日から要求レベルを強化した令和6年度基準が施行され、従来の「水準3」は「水準B」となり、新たに断熱性と省エネ性能を大幅に引き上げた「水準A」が設けられた。水準Aでは太陽光発電設備などの再生エネルギー設備も原則設置となる。パナソニック ホームズではこの水準Aへの対応も進めている。
NEWビューノでは、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の住宅性能表示制度における暖熱性能等級6にも対応。屋根全体に太陽光発電パネルが平置きできる架台も新たに導入し、2025年4月から東京都で義務化される延床面積2,000平方メートル未満の新築住宅への太陽光発電パネルの設置にも対応可能だ。
家電だけでなく、家でも"省エネ"を重視する時代へ
そもそも「東京ゼロエミ住宅」や「ZEH」とは何なのかと感じる人もいるだろう。少し寄り道して説明しておく。
東京ゼロエミ住宅は高い断熱性能の断熱材や窓を用いたり、省エネ性能の高い照明やエアコンなどを取り入れたりした、東京都が独自で推奨する住宅の仕様のこと。ゼロエミは「ゼロエミッション(ZERO EMISSION)」の略で、温室効果ガスなどのエミッションをなくそうという意味だ。
政府は2030年までに国内で排出する温室効果ガスを2013年度比で46%削減し、さらに50%に向けて努力することを表明している。そして、2050年には実質的な排出量をゼロにしたい考えだ。東京ゼロエミ住宅は、政府のこの施策に東京都が貢献するべく2021年1月に打ち出した「ゼロエミッション東京」の中で規定された。住居の断熱性能と設備の省エネ性能を仕様から「見える化」しようという試みだ。
ZEHは「Net Zero Energy House」の略で、太陽光発電による電力創出と、省エネルギー設備の導入や外壁などの高断熱仕様により、生活で消費するエネルギーよりも生み出すエネルギーのほうが大きい住宅のこと。平たく言えば光熱費が一切掛からない住宅のことだ。 国は遅くとも2030年度までに、新築住宅のZEH水準適合義務付けを目指している。これは先述の温室効果ガス削減目標にも沿ったものだ。この流れの中、2024年4月には国土交通省の主導で「建築物の省エネ性能表示制度」がスタートしている。緑を基調としたデザインの「省エネ性能ラベル」を、販売・賃貸事業者が広告やパンフレットなどに表示する制度だ。
販売・賃貸事業者が「省エネ性能ラベル」を広告や物件情報サイトなどに表示することで、入居者が建築物を購入・賃貸する際に、物件の省エネ性能を把握・比較できるようにするためのものとなっている。
このラベルを画像で表示する物件情報サイトはすでに増えてきており、今後はどこの情報サイトでも当たり前に見られるようになるだろう。家電に詳しい読者なら、エアコンの省エネ性能表示ラベルに似ていると感じるかもしれない。エアコンは経済産業省の資源エネルギー庁の主導だが、「消費者が情報を把握して比較検討しやすくする」という目的は同様だ。
冷暖房の稼働が減り、光熱費低減も
話をNEWビューノに戻そう。パナソニック ホームズによれば、NEWビューノへの入居者は冷暖房機器の稼働を減らすことができ、光熱費の低減が見込めるという。月々どのくらいの節約になるのかは季節や環境、生活習慣など複雑な要因によって変わるため一概に言えない。だが「ビューノ」入居者の声として、世帯構成や家賃が同じ住居で1カ月の光熱費が1万円ほども違うケースがあるとの例も紹介している。
冒頭で見学した千駄ヶ谷の5階建マンションも、目に見えづらい部分でこれらの先端技術を導入している。地震に強い重量鉄骨構造を採用しているほか、15センチピッチ工法で細部まで調整しており、建ぺい率は70%、容積率は216%と法規制のギリギリまで空間を活用した設計だ。着工時には東京ゼロエミ住宅の令和6年度基準の情報がなく、水準Aは謳えないものの、現在適合可能かどうか再計算中とのことだった。
見学はできなかったが、オーナーの住む5階は「エアロハスM」を導入し、フロアの全館空調を実現。エアコンの室内機がなくてもどの部屋も同じ室温を保つ。屋上の太陽光パネルもオーナー用で、光熱費を抑える仕組みだ。設計担当者は「オーナーがすぐ近くの神宮球場の花火を屋上で見たいとの要望を掲げていたため、屋上の太陽光パネルは全面ではなく半分ほどの面積に抑えた。オーナーの希望に沿う形で完成できた」と言う。
パナソニック ホームズはオール賃貸のマンションも手掛けているものの、オーナーが最上階に住んで階下を賃貸にする併用住宅を積極的に提案している。オーナーにとっては月々の賃料が得られ、ローンの返済や遺産相続などに活用できるのが利点だ。
貸す人には「将来も資産価値となる賃貸」、借りて住む人には「住み続けたい賃貸」。パナソニックがNEWビューノで目指す、付加価値の高い高級賃貸住宅の姿が見えてきた。都心で資産運営を検討する人や、快適で住心地の良い住居を探す人には注目に値するニュースではないだろうか。