世界の富裕層からもっとも愛される金融資産でありながら、日本ではまだ一般的とはいえない『米ドル債券』の存在をご存じですか? 『富裕層のための米ドル債券投資戦略』を上梓したウェルス・パートナー代表の世古口俊介氏が、米ドル債券の概要とその魅力について解説します。
米ドル債券とは
米ドル債券への投資を簡単に表現すると「国や会社に米ドルを貸すこと」です。
たとえばトヨタ自動車(会社)がアメリカで事業を行う上で大量の米ドルが必要な状況にあったとします。すると、米ドルを集めるために米ドル債券を発行します。お金は無料で貸してもらえませんよね。ですから、借入金利5%、5年後に返却といった条件を付けるわけです。
投資家が米ドル債券を購入すると会社はお金を集めることができます。会社はお金を事業に活用でき、投資家は利息を受け取るため、双方がWin-Winの状態になります。
米ドル債券投資が富裕層を魅了する5つの理由
米ドル債券投資が富裕層から人気を集めている理由として、以下の5つがあります。
- インカムゲインを得られる
- 外貨への分散投資ができる
- 手間がかからない
- 換金性が高い
- 価格の安定性がある
インカムゲインを得られる
インカムゲインとは、資産を保有することで継続的に得られる利益のことです。米ドル債券投資におけるインカムゲインは利息を指し、安定した定期収入になります。
米ドル債券の場合、きちんとした会社が発行する債券であれば、基本的に利息が不払いになることはありません。不払いになるのは、会社が倒産しそうなときくらいです。
財務が安定している会社や国であれば、利息収入を毎回確実に受け取れます。
外貨への分散投資ができる
米ドル債券はドル建てのため、円を売ってドルで投資を行います。多くの日本の富裕層は、資産が日本円に偏っていることが多く、米ドル債券に投資をすることでリスクの分散が可能です。
今後インフレが強まったり円安傾向になったりすることへの備えとして、米ドル資産を持つことは有効な対策です。日本円に偏った通貨配分を見直したい富裕層が多いことも、米ドル債券が人気を集めている理由です。
手間がかからない
富裕層は基本的に現役世代で、会社を経営している方も多いです。仕事で多忙なため、投資に時間をかけたりストレスを感じたりすることは避けたいと考える方が多く見られます。
富裕層の投資方法として、不動産投資もよく挙げられますが、リアルの物件を扱う投資はかなりの手間がかかる方法です。空室が出たら、入居者を獲得するために動かなければなりません。建物は老朽化してくるため、修繕などの手間や費用もかかります。
米ドル債券投資は、最初に購入するときだけ少し手間がかかります。証券口座に口座開設をして、買い付けの手続きをすることが必要です。
しかし、それ以降はほぼ手間いらずで投資を続けられます。購入ですら、家から一歩も出なくてもできる時代になっているため、時間も手間もかかりません。
換金性が高い
換金性・流動性の高さも、米ドル債券の特徴です。1週間程度あれば、米ドル債券を売却して日本円のキャッシュに戻せます。あらゆる金融資産の中でも、株式や投資信託などと並び、米ドル債券は換金性がかなり高いといえます。
余剰資金で運用していても、いざという時には売却して使えるようにしたい、オプションを持っていたいというのが富裕層の考えです。5年・10年と保有を続けなければならないことに抵抗を示す方が多いです。
海外に移住したり自宅の購入をしたりするため、まとまった資金を充てるときに、すぐに現金化できる選択肢を持っておきたいという富裕層の要望にも、米ドル債券投資は対応できます。
価格の安定性がある
5つ目の理由は価格の安定性です。富裕層は、短期間で資産を2倍・3倍など大きく増やしたいと考えていません。増えるのは少しずつで構わないため、大きな価格下落を避けて、安定的に運用したい方が多いです。
債券はまさにその希望を叶えるのに相応しい金融商品で、価格の安定性に優れています。安定している理由は、株式にはない法則にあります。
米ドル債券がたとえば100という価格で発行されたとすると、満期には100で戻ってくるという法則です。株式の場合、株価が2倍・3倍になることもあれば、1/2や1/3になることもあります。最後に100で戻ってくるという法則はありません。
債券も持っている間に価格は変動するものの、最後に100で戻ってくる前提があるため、株式と比べて価格が安定するのです。
まとめ
米ドル債券投資が富裕層を魅了する最大の理由は「安定性」です。価格が安定していること、安定して利息を受け取れること、安定した通貨に分散投資できることなどのメリットがあります。
富裕層の多くは長期運用を行い、刺激よりも安心感を重視するため、債券の運用が多くなります。私の経験上、富裕層の多くは、一度持った米国債券を手放しません。それほど継続したいと思えるような投資方法といえます。
また、意外と知られていないことですが、金融資産の王様は株式ではなく債券です。発行済みの債券の時価総額は、株式を上回っているからです。
債券市場で最大のシェアを占めるのが米ドル債券であり、「キング・オブ・キング」ともいえる投資方法といえます。
『富裕層のための米ドル債券投資戦略』(1,650円/世古口俊介 著/総合法令出版株式会社 刊)
「世界の富裕層からもっとも愛される金融資産」でありながら、日本ではまだ一般的とはいえない「米ドル債券」を解説しました。米ドル債券が富裕層の資産運用に必要不可欠な理由、米ドル債券の基本と魅力、劣後債、債券ポートフォリオの作り方、具体的な投資方法・アドバイザー選びなど、基本から実践までを網羅しています。
世古口俊介(せこぐち・しゅんすけ)
株式会社ウェルス・パートナー代表取締役。2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱東京UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレー証券)を経て2009年8月、クレディ・スイスのプライベート・バンキング本部の立ち上げに参画し同社の成長に貢献し、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。資産数億円以上の富裕層を対象に資産運用コンサルティングを行う。株式や債券、不動産などすべての資産クラスを扱い資産全体を最適化。書籍出版や各種メディアへの寄稿、登録者2.5万人超のYouTubeチャンネル「世古口俊介の資産運用アカデミー」を通して日本の富裕層に資産運用の情報を発信している。