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ウイスキーをバーで飲んでいて、「ボトラーズ」という言葉を聞いたことはありませんか? 瓶詰め業者、つまり「ボトラー」が詰めたウイスキーという意味で、蒸留所やウイスキーメーカーが出している「オフィシャル」とは異なります。今回は、このボトラーズ・ウイスキーの基本と魅力をご紹介します。

( Life )
9 バーで役立つ洋酒の知識

百花繚乱のウイスキーを楽しめるボトラーズの世界

JAN. 01, 2025 11:30 Updated JAN. 09, 2025 19:10
Text : 柳谷智宣
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ウイスキーをバーで飲んでいて、「ボトラーズ」という言葉を聞いたことはありませんか? 瓶詰め業者、つまり「ボトラー」が詰めたウイスキーという意味で、蒸留所やウイスキーメーカーが出している「オフィシャル」とは異なります。今回は、このボトラーズ・ウイスキーの基本と魅力をご紹介します。

  • 2023年に購入した、老舗ボトラーズであるゴードン&マクファイル社の「マッカラン 55年」です

蒸留所から原酒を買って自社で瓶詰めするボトラーズ

蒸留所が自ら製造・販売する商品はオフィシャルボトルと呼ばれます。流通量が多く、ラベルやパッケージが統一され、名前を聞くだけで味わいがイメージできるでしょう。アルコール度数は40~50%ほどに加水調整されているものが主流です。

一方、インディペンデント・ボトラーズと呼ばれる独立した瓶詰業者は、蒸留所から樽ごと原酒を購入します。自社の倉庫で熟成を続行させ、その後に瓶詰めを行い、独自のラベルで販売します。そのため、蒸留所や既存のウイスキーブランドのイメージに縛られず、自由な発想でウイスキーを作ることができます。

例えば大手蒸留所の原酒を用いたとしても、加水調整せずに樽出し(カスクストレングス)で提供するなど、独特のアプローチができます。樽出しはアルコール度数が60%前後と、とても高くなるのですが、そのパンチの効いた美味しさにハマる人も多いのです。

オフィシャルシリーズでは使っていない樽に詰め替えて熟成させることもあります。熟成年数もボトラーズが自由に決められるので、12年18年25年以外の年数表記も多く、色々と楽しめます。もちろん、オフィシャルでは見られない、超長期熟成することもあります。さらには、オフィシャルのシングルモルトウイスキーを販売していない蒸留所の樽がボトラーズから販売されることもあります。

ボトラーズが蒸留所から購入できる樽の数は限られているので、1製品当たりのボトル本数は数十本から数百本と、とても少ないのも特徴です。1樽から1製品を瓶詰めするシングルカスクも多く、同じ製品に将来出会う可能性は低い一期一会のウイスキーと言えます。

  • こちらも老舗ボトラーズであるケイデンヘッドの「グレンオード13年」です

オフィシャルとは異なる仕上がりを楽しめるのが魅力

ボトラーズの多くは、ラベルに詳細な情報を記載していることが多く、それを見るのも楽しみのひとつ。原酒を作った蒸留所名や蒸留年月、瓶詰め年月、熟成年数に加え、熟成に使った樽やその製品の製造数と製造番号も書かれていることがあります。オフィシャルボトルとは一線を画すポイントです。

好きなウイスキーのボトラーズを飲むのは何よりも楽しく、いい経験になります。異なる業者が入って、余計な手間がかかっているので、ボトラーズは高そうに思えますが、同じ熟成年数であればそこまでプレミアが付くことはありません。比較的安くなっていることのほうが多いのではないでしょうか。もちろん、仕上がり具合やボトラーズによって価格が上がることはあります。

どうやって飲めばいいのか、と聞かれることが多いのですが、基本的には自由に飲んでかまいません。とはいえ、貴重なボトラーズウイスキーを飲むのであれば、ほんの少しだけ加水するとよいでしょう。数滴から最大でもウイスキーと同量までです。それ以上加水するとウイスキーのアロマが薄まってしまうことがあります。

筆者は基本的にストレートで飲みます。アルコール度数が高いので、チェイサー(水)はたっぷり飲むべきですが、ウイスキーを口に入れて楽しむときは濃い目がおすすめです。

  • おすすめの飲み方はストレート。写真はダグラスレインというボトラーズの「OLD MALT CASK」シリーズ、「ポートエレン18年」です

まずはチャレンジ! お気に入りのボトラーズを見つけよう

同じ蒸留所の原酒を使っているのに、オフィシャルのウイスキーとボトラーズのウイスキーは驚くほど味わいが変わります。そして、異なる蒸留所の原酒を使っているのに、老舗ボトラーズは製品に一貫した雰囲気を持っています。ボトラーズとしてのこだわりが熟成に反映されており、味わいや香りに特徴があるのです。

まずは、お気に入りの蒸留所のボトラーズを飲んでみて、気に入ったらそのボトラーズのほかのウイスキーを飲んでみましょう。オフィシャルはいまひとつ好みではないと感じても、最高に相性の合うボトラーズに仕上がっているかもしれません。

ボトラーズはウイスキー蒸留所の数より多いので、覚えきれるものでもありません。中身がわかりにくいボトラーズもあります。

例えば、契約上の問題などで、購入した原酒の蒸留所をボトラーズのラベルに記載できないことがあります。詳細情報を記載できず、商品名も変えなければなりません。また、スプーン1杯分、別の蒸留所のウイスキーを混ぜることで「シングルモルト」を表示できなくする手も使われます。このウイスキーをティースプーンモルトと呼びますが、原酒が99%以上入っているので、味わいはほぼ変わりません。バーテンダーやショップの人に聞いてみるとよいでしょう。

  • 筆者のお気に入りボトラーズのひとつ「BLACKADDER」

ここからは、有名かつ筆者が大好きな有名ボトラーズを10、紹介します。もしバーで見かけたら、お気に入りの蒸留所の銘柄を飲んでみてください。

1. ゴードン&マクファイル(Gordon & MacPhail)

1895年創業のスコットランド老舗インディペンデントボトラーです。家族経営を貫き、独自の樽管理で希少なシングルモルトを熟成。豊富な蒸留所との関係から高品質なウイスキーを多彩に展開します。

2. ケイデンヘッド(Cadenhead's)

1842年創業のスコットランド最古のインディペンデントボトラーです。非冷却濾過と無着色にこだわり、原酒本来の風味を重視。多様な蒸留所の希少なシングルモルトを幅広く提供し、独自のボトリングスタイルでも知られています。

3. ダグラスレイン(Douglas Laing)

1948年創業の家族経営ボトラーです。小ロットやシングルカスク中心の職人技が魅力で、ユニークなブレンドシリーズも展開。特に「オールドモルトカスク」など個性的なシリーズでファンを獲得しています。

4. シグナトリー・ヴィンテージ(Signatory Vintage)

1988年創業の比較的新しいインディペンデントボトラーです。シングルカスクやカスクストレングスに特化し、多様な蒸留所から厳選した樽をボトリング。品質重視の製品づくりで人気を集めています。

5. ハンターレイン(Hunter Laing)

2013年創業の家族経営ボトラーです。ダグラスレインから分離独立した新進気鋭の存在で、シングルカスクや高品質ブレンデッドウイスキーを手がけます。独自の熟成手法で個性豊かなウイスキーを生み出しています。

6. ダンカンテイラー(Duncan Taylor)

1938年創業の老舗ボトラーです。閉鎖蒸留所の希少原酒を数多く保有し、ヴィンテージウイスキーのボトリングで高評価を得ています。多彩なラインアップが魅力で、コレクターからも注目を集めています。

7. ブラックアダー(Blackadder)

1995年創業のボトラーです。ノンチルフィルターや無着色、そして樽出しそのままの「Raw Cask」シリーズで有名。ピュアなウイスキー体験を追求し、個性的な風味を楽しめる点が大きな特徴です。

8. スコッチモルトウイスキーソサエティ(The Scotch Malt Whisky Society, SMWS)

1983年創設の会員制団体です。シングルカスク限定のウイスキーを提供し、ボトリングはすべてカスクストレングス。ユニークなテイスティングノートや多彩なラインアップで愛好家を惹きつけています。

9. サマローリ(Samaroli)

1968年創業のイタリアのボトラーです。斬新な熟成哲学や芸術的なラベルデザインで知られ、スコッチウイスキー界に革新をもたらしました。希少性の高い原酒を独自に選び抜き、世界的評価を得ています。

10. T&T TOYAMA

2021年創業。富山県を拠点にする日本の新興ボトラーです。モルトヤマの下野孔明氏と若鶴酒造・三郎丸蒸留所の稲垣貴彦氏による共同プロジェクトであり、世界で初めてジャパニーズウイスキーに特化している点が特徴です。

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ボトラーズはコレクター視点で希少ボトルを探すという楽しさがあり、筆者も飲みきれるのかわからないほど買い集めています。また、ラベルにこだわっているものが多く、見た目から楽しめます。自宅の棚に並べておくだけでも特別な気分になるでしょう。ボトラーズの世界は奥深くて、美味しくて、楽しいので、ウイスキー好きであればぜひ試してみましょう。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。