メルセデス・ベンツの名車「S124」と暮らす自動車ライター・原アキラさんに悲喜こもごもを聞く本連載。5回目となる今回は、所有2号車となった「E280」がまさかの悲劇に見舞われます。これも、少し古い名車を選んだ人たちの宿命なのでしょうか……。
銀座でレッカー車が出動する事態に!
さて、好みのアクセサリーを取り付けて我が家(東京は国立市のマンション)の駐車場に収まったメルセデス・ベンツ「S124」の2号機(E280)。AでもBでもCでもなく、フラッグシップのSクラスに次ぐステータスを誇るEクラスとはいえ、30年以上前に設計された車幅はたった1,740mmしかなく、狭いマンションの立体駐車場(幅は約1,900mm)でも一発で車庫入れできるのがあいかわらず嬉しい。
それは、まだ納車から日も浅い朝のこと。そろそろ、新しいタイヤも決めなければなどと思いつつ、都内での用事に出かけるため、2号機を駆って国立府中ICから中央道に入り、調布付近からの毎度の渋滞にもまれながら高井戸を過ぎて首都高に突入、やっとクルマが流れ始めた永福料金所を通過してすぐのことだった。突然、メーター内の警告灯が一斉に点灯し、エンジンがストールしてしまったのだ。
一瞬あわてたが、前方を見ると永福出口が目の前にある。ETCゲートを過ぎて加速しているところでエンジンがストップしたため、車速がある程度は出ていたうえ、左側の車線を走っていたことは幸運だった。前後のクルマに注意しながら、一気に手応えを増したノンパワーステアリングをグイッと左に切り、直下を走る甲州街道に向けて一直線に坂を下る。
甲州街道への合流ポイントをみると、さらにラッキーなことに、そこには一旦停止の表示がなく、そのまま進入できるのを確認。左側後ろ下方に目をやると、4車線の道路上にはクルマの通行がなく、オールクリアな状態だ。ノンパワー状態で車線変更を続け、左端の路肩まで進んでなんとか車を停めることに成功した。
「永福料金所付近、故障車のため渋滞○○キロ発生……」。ほっとした途端、頭の中ではJ-WAVEで聞き慣れた道路交通情報センターの女性の声が聞こえたような気がしたが、まずはそんな事態にならなくてよかった。
ストールの直前には、渋滞中に心配になる水温計の針が90度前後までしか上がっていないことを確認していたので、オーバーヒートでないことは確かだろう。停車後、外に出て車の状態を四方から目視で確認。ボンネットを開けてみても全く異常がなく、そのまま5分ほど待って気を沈めることにした。
レッカー車を呼ぼうかとも考えたが、「いや、一度エンジンを再始動してみよう」と思い直してキーを捻ってみると、エンジンは普通に回り始めるではないか。警告灯も点かないので、ちょっと迷ったけれど、そのまま甲州街道の左レーンを選んでゆっくり走り、都心に向かうことにした。
しかしである。ついに銀座の銀中通り上で2度目のエンジンストール。路肩に止めるため2号機を左端に寄せようとしたところ、運悪く(?)首都高銀座出口を右後方から駆け上がってきた白のフェラーリが、その先の交差点で左折するため後ろにピタリとくっついてきた。「うわっ」と思ったが仕方がない。車を停めて2号機を降り、「申し訳ない、エンジンが止まってしまったので」と手を合わせると、ドライバー氏はすぐに状況を把握してくれ、一度バックして前方に回り込んでくれた。やれやれ。
さっきと同じようにエンジンを再始動することができたので、晴海通りから木挽町通りに場所を移して車を停め、今度はレッカー車を呼ぶことにした。今回はJAFではなく(数年前の1号機の故障の際はJAFにお願いした)、保険を使用。筆者が加入しているアクサダイレクトでは、現場から移送先までの距離が35キロまでなら無料とのこと。銀座から横浜市都筑区のアイディングまでの行程をGoogleナビで確認すると約31キロだったので、問題なしだ。まもなく到着した積車に手際良く積み込まれた2号車を、銀座の路上で見送ることになった(同乗はできないのだそう)。
難航する原因調査、迫る決断の時
入院先のアイディングでは早速、エンジンストールの原因探しが始まった。確かに2号機は納車以来、アイドリングの回転数が少し低くて(600rpmあたり)頼りなげだったし、エアコンのアイドルアップが終わったときには結構大きめのハンチングも出ていた。アイディング社長の白濱さんからも、「ちょっと様子をみながら走ってみてください」と言われていたのであった。
まずは、最も疑いの度合いが大きい、高価なECU(エンジンコントロールユニット、いわゆるエンジン制御用コンピューター)を交換してみたものの症状は変わらず、負荷がかかるコンプレッサーも問題がなかった。
次は電気回路を疑うわけだが、この2号機、前の所有者の元で1度、エアコンのエバポレーターを交換した形跡があり、その際の回路の接続が「えーっ」と驚くほど怪しい状態だったらしい(変なところで切ったり接続したりした跡が残っていた)。それが原因で、どこかで電気がリークしているのかもしれないという。
その場所を特定するのはなかなか大変な作業らしく、時間をかなり要するとのこと。アイディングのベテランメカニックさんも「私もかなりの数の124を診てきましたが、今回のはそのなかでもまれに見る厄介な感じです」とおっしゃるのだ。
筆者の不安はMAX。入院期間もどんどんと過ぎていく。さすがに「こりゃー、だめだ」と腹を決め、「別のクルマを考えます!」と白濱さんに告げた。仕事(試乗会など)の際は時間通りに遠くの現場に到着する必要があるし、プライベートでは孫(1歳半)を乗せることが多いので、不安を抱えたクルマにこのまま乗り続けることはできないのだ(「それなら新車に乗ればいいじゃん」という声があるのは重々、承知しているのですが……)。
そんな中でも、1つの新しい発見があった。アイディングが代車で用意してくれた「W124」(E280)に乗ってみると、ステーションワゴンとは乗り味が大きく違うのだ。
さすがEクラスのセダンだけあって、走るとワゴンに比べて車外騒音の侵入がしっかりと遮断されていてとても静かだし、サスペンションの動きから感じられる車体の剛性感も高そうだ。走りだけを追求するのなら、セダンの方が優れているのは間違いない。トランクは広くて深く(4本の195/65R15タイヤがきちんと収まった)、開けた時に後方から視認しやすい位置に三角停止板が備わっているのもいい。
とはいえ、筆者が乗りたいのはやっぱり、実用性に優れたS124。さて、次のクルマはどうしよう。